広瀬隆氏は、「福島第1原発4号炉が危ない!」”万一”であれば書かないが、フィフティーフィフティーと言われるほど、相当に確率が高いので、筆を執ることにしたとの記事を『週刊朝日』(3月9日号p138〜139ページ)に書いたので、全文を下記に記載した。
どうも、気が気でないことがある。私は2月初めにフクシマ大事故の被災地である福島県内の連続講演会した折に、会場に向かって、本心からこう願いした。
「福島第一原発の内部で何か”異常”が起こっているような気がします。みなさん、逃げる用意をしておいてください。ただ逃げるという漠然とした考えではなく、どのような交通手段を使って、どこに向かって移動するかを、きちんと家族で話し合っておいてください。普通のマスクではなく、放射性物質の粒子をすいこまないしっかりした防塵マスクを、家族全員一人ずつが、常にポケットに入れて生活してください」と。
自分自身、ストレストの愚かさを、書いたり語っている時ではないような気がしてならないからである。ひょっとするとそんな議論をしている時間がないかも知れない。その前に、もうすぐ日本が終るのではないか、という世にも恐ろしい日が目の前に近づいていないかと、胸騒ぎがする。
それは、昨年に爆発した福島第一原子力発電所の4基の原発が、1年経つうちに次第に内部から弱ってきて、大崩壊する可能性があるからだ。また同時に、日々余震を見ていると、静岡県を直撃する東海大地震が、明日にも起こって、浜岡原発3基が一瞬で大爆発する日が迫ってきている子も知れないと、悪夢が頭をよぎるからだである。それは、昨年の3月12日から15日にかけて連続爆発が起こって、日本全土を襲った恐怖より、はるかにケタ違いの放射能が放出される。”人生最後の事態”である。本誌の連載45回「揺れる日本列島 数十年続く激動期」で、この余震はいつまで続くかと言うことを解説した通り、われわれ日本人は、まことにまずい時期に生まれ合わせてしまったのだ「地震・雷・火事・親爺」の諺は、まず一番に地震が怖いと言う教えである。
福島第一原発では、4基とも危ないが、とりわけ4号機の原子炉建屋は、昨年のブールから生じた水素の大爆発で、ほとんど骨組みしか残らないほど大崩壊してしまった。
東京電力は、傾いて崩壊寸前のこの建屋のプールを補強するため、応急処置の工事をしたが、それは、なん本かのつっかい棒を入れただけである。その支柱の下は、補強できないまま、実は軟弱な基礎の上に、つっかい棒が立っているという、いい加減な状態のままである可能性が高い。なぜ完全な補強にすぐ取り掛からないのか、東電の判断が我々には分からない。
この大気中にむき出しのプールには、不幸にして通常の運転で原子炉が抱える「数個分」の使用済み核燃料が入っているとされる。 その量は、10〜15年分の運転期間に相当するウラン・プルトニューム燃料が入っていると言うことになる。元旦に東北地方・関東地方を襲った地震のあと、このプールの隣にあったタンクの水位が急激に低下したのでプールに異常が起こったことは容易に類推できる。さらにその後、1月12日と23日に、立て続けに、福島一原発のある浜通りを激震が襲ったので、私は生きた心地がしなかった。
私が福島県内で語った「逃げる準備をしておきなさい」という危惧は、建屋の最上階にあるプールが、大型の余震で崩壊してドサット崩れ落ち、これらの大量の燃料がむき出しとなって、原発の敷地に転がしだす末期的事態を恐れてきたからである。その時、現場には人間がいられなくなる。作業員も東電職員も全員が逃げ出さなければならない。それは1〜6号機のすべての事故処理を放り出してしまう事態だから、次々と、新たな爆発を誘発するおそれが高い。
大量の燃料棒が燃え出す可能性
ところが東京に帰宅後に読んだのが、先週号で紹介したアーニー・ガンダーセン氏の著書『福島第一原発ー真相と展望』(集英社新書)である。そこには、明日にでも”日本滅亡”が起きて不思議でないことを裏付けるように、この4号機の抱えるトテッモナイ危険性が警告されていたので、ますます自分の胸騒ぎが本物であると感じるようになった。 私の危惧は、杞憂どころでなかった。それより恐ろしいことが起こる可能性があるというのだ。
カンダーセン氏によれば、大型の余震でプールに亀裂が入り」、水が漏れて加熱してゆけば、燃料棒の金属そのものが燃え出し、この大量の燃料が一挙に大気中で燃えるという世にも恐ろしい事態に至るおそれがある。このような事態になれば、人類史上に経験のしたことのない事故であり、一切の対策がとれないまま、日本列島が壊滅することについて、論理的な解説がなされていた。
私は昨年来、家族には、「本気で日本から逃げることを考えておくよう」常々言っているが、彼もまた、「東京の友人には4号機が崩れれば即座に逃げるよう助言しています」と述べている。
彼は、そのようなカタストロフィーを招く震度7の最大の揺れが起こる確率は低いとしているが、おそらく昨年来われわれが体験してきた、浜通りを襲ってきた震度5や6の続発については、あまり知らないだろう。こうした中地震の続発がプールのコンクリートに与えてきた疲労は、相当なものに達している。したがって彼の知識と、日本人の知識を突き合わせると、大地震でなくとも、コンクリートの亀裂から水が漏れる可能性は高い。
今、内部の温度も、中性子も水素もまともに測定できずに、現場を管理している東電ばかりでない、日本のあらゆる原子力関係者は、昨年に4基まとめて、水素爆発が起こるまで放置していた人間ばかりである。日本人の生命を守るために、こうした事故を未然に防ぐ能力という点で、おそろしく頭が悪いとしか言いようがない。4号機に何かがあれば、私の事故シナリオであれ、ガンダーセン氏の事故シナリオであれ、もう手がつけられない。致死量を浴びる急性放射能障害によって、バタバタ人間が倒れてゆく事態である。
東電も真っ青になって震えながら、今度こそ「直ちに健康に影響が出ますからすぐ遠くに逃げてください」と記者会見するはずだ。一方、国は当面パニックを避けるために、それを隠すとするだろう。富士山周辺の余震が続発している今、浜岡原発を直撃する東海大地震が起こって、3基が一瞬で大爆発する可能性も、昨年の大災害前日、3月10日よりはるか高くなっている。電源喪失を論じているヒマはまったくないほど、バタバタと人が倒れてゆく、”日本滅亡”の事態である。今度こそ、どうあっても、私の最悪の予測が外れなければならない。そのためには燃料棒を取り出し、冷却機能備えて、地震の影響の少ない場所で保管するしかない。政府はただちに、この国家プロジェクトに取り組むべきだ。
※
広瀬隆氏は、『原子炉時限爆弾』(ダイアモンド社)に次のようにも書いています。「日本の電力会社は、地盤が強固な土地を選んで原発を建設するのではなく、原子力発電所の建設地を選択した後、その《安全性》を証明するためにアリバイづくりの地質調査をする、という逆の手順を取ってきた。」p.157
2012年03月07日
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