101歳の長寿であった生活評論家、吉沢久子さんが綴った、エッセイ集『101歳。ひとり暮らしの心得』(中央公論新社)の幸せな暮らし方の秘訣は、日々に小さな喜びを大切にし、前向きに悔いの残らない時間を過ごすことだそうです;
歳をとると、それまであたりまえにできていたことが、だんだんできなくなります。足腰が弱るので歩くのもままならないし、しゃがむことができないので床のゴミも拾えません。年齢とともに肉体は衰え、できないことが増えます。
「90歳になると、大変なことが増えてきました。重いものは持てませんし、足も弱り、転んだら大変なので外を一人で歩くのも控えるようになりました。畑へ上がる階段も上れなくなって、今は近所に住む甥が野菜を育ててくれています。耳も遠くなり、補聴器を使うようになりました」
2年前には心臓の調子が悪いことがわかった。
「自分の思いどおりに体を動かせないとはどういうことなのかということを、今、経験しています。体を自由に動かせるということは大変なことだったんですね」
昨年、はじめての入院も経験した。
「胸が苦しくなって入院したんですけれど、そのときに偶然、下の歯も欠けちゃって、野菜が食べにくくなってしまったんです。それを先生に言ったら、刻み食にしますかっておっしゃるの。刻み食なんて興味がわき、お願いしますって即答したんですけれど……びっくりしました。何を食べているか全然わからないほど、野菜も肉も魚も同じようにすべてを小さく刻んでいるのが刻み食です。
それで、私たちは食べ物の大きさや厚み、硬さや柔らかさ、そういうことも全部含めて味わっているんだってわかりました。それで3日目に普通の食事に戻してくださいとお願いしました。」
「肉体的につらいことがあれば、ちょっとは落ち込んだりもしますけど、私はいつも明るい方向を見るんです。あれができなくなった、これも無理になったと嘆いてもしょうがない。そしてどうにかしなければならないことは、他の方法はないか、工夫できないかと考える。考えること自体も楽しみます」
宅配便や郵便屋さんが来ても、すぐに出られるようにしている。重い荷物を運ぶために室内でも使える簡易の台車も使い始めた。固い瓶の蓋を開けるときには、ゴム手袋を両手にはめてキュッとひねる技も身につけた。無理はしませんけれど。もったいないでしょ、あきらめたら。自分の人生なんですから、大切にしないと」
失ったものを数えて嘆いていたら、どんどん暗くなり、みじめな気持ちになるばかり。身体能力が落ちたら、それに変わる方法を工夫することも大事ではないでしょうか。
また、明るく楽しく生きるには、できないことは、固執せずあきらめる潔さも必要です。
かつてと同じように暮らせなくても、与えられた今の生活を自分らしく楽しむことができたら、十分幸せだと考えるといいのです。
『クロワッサン』931号より
でも、ちょっと異変を感じたら、病院で入院していた事も明かしています。晩年入退院を繰り返したのは体調不良もありますが、先手を講じていたのよ大きいと言えるでしょう。入院先の病室で、就寝してそのまま自然死されていたそうです。