米IBMの半導体部門を統括するムケシュ・カレ氏は13日の演でラピダスが北海道千歳市に建設中の新工場を訪れたことを明かした。IBMは最先端半導体を製造するのに必要な技術をラピダスに供与している。
カレ氏は「施設を見て素晴らしかった。2つの大国が先端半導体をつくる大きなミッションで協力する一例だ」と述べた。最先端の半導体の量産を目指すラピダスが狙う2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体は「『7ナノ』のものに比べ電力消費が75%少ない」と話した。講演は、東京ビッグサイト(東京・江東)で開催中の半導体の国際展示会「セミコン・ジャパン」で行われた。
生成AI(人工知能)の普及で世界で電力消費が膨らんでおり、省電力を強みにできるとの見方を示した。ラピダスは2027年の量産開始を目指している。現在、7ナノ台の半導体は台湾の台湾積体電路製造(TSMC)や米インテルなどが生産する先端品だ。IBMとラピダスは22年、さらに線幅が微細な2ナノの半導体の製造で提携した。
齋藤健・経済産業大臣は、今年4月2日の記者会見で、政府・経済産業省が最先端半導体の受託生産を目指すRapidus(ラピダス)に対し、2024年度中に最大で5900億円の追加支援を行うと発表した。既存の支援額(3300億円)と併せて、政府の同社に対する直接的な支援の規模は1兆円に迫ることになる。手厚い支援の背景には、経済安全保障の観点から半導体のサプライチェーン確立が必要不可欠な状況や、ラピダスが2027年頃の量産を目指している2ナノメートルサイズの半導体が「生成AIや自動運転など日本産業全体の競争力の鍵を握るキーテクノロジーである」(斎藤経産大臣)との問題意識がある。
ただ、今回で政府による支援が終わりということはない。ラピダス自身も量産開始までに総額で5兆円程度の資金が必要だと認めている。客観的に見れば、ラピダスは、政府支援のほか、民間金融機関からの借り入れ、上場を通じた公募増資や売り出しなど、様々な資金調達を実現できないと、量産の開始前に経営が行き詰まるリスクを抱えているのが実情だ。
米国が中国とのデカップリング(経済の分断)を進める中で、世界の半導体業界のトップ3の中に自国企業がインテル1社しか含まれていないうえ、そのインテルが3位とはいえ、1位の台湾TSMCや2位の韓国サムスン電子に大きく後れを取っている状況に危機感を持ったからだ。そして、米政府は密かに、日本政府・経済産業省に対し、半導体製造部門を売却し、設計などに特化するファブレス企業への変身を目指しているIBMとのエクスクルーシブな(唯一の)提携先になるファウンドリを育成する考えがないか打診してきた。そして、この打診を「渡りに船だ」とみなした、日本政府・経済産業省が受け皿会社として設立・立ち上げを促したのが、現在のラピダスだったのだ。
日経新聞(12/13)
町田 徹 (https://gendai.media/articles/-/127442?page=2)つづき