富士山が噴火したら――その被害規模について、内閣府がある試算を出していた。その恐ろしい「予測値」とは。
地震の陰に隠れてしまった「忘れられていた富士山噴火の周期」だ。
1707年の宝永噴火以降、静けさを保っている富士山だが、300年の沈黙は不気味なほど長すぎる。噴火についての研究を行う日本大学自然科学研究所の上席研究員の高橋正樹氏は「富士山は、将門の乱の頃や1100年頃の平安時代末期までは、しきりに溶岩を噴出する噴火を起こしていました。その後、しばらくの静穏ののち、1707年に大規模な噴火がありました。そこから300年間再び静穏な時期が続いていますが、周辺での大きな地震などをきっかけに大噴火を起こすことは十分に考えられます」
地震に比べると、火山への対策は「3周は遅れている」と言われている。ところが、富士山噴火の被害規模について、政府が驚きの試算を出していた。
'22年3月に内閣府が開催した非公開の会議。そこで配付された資料を入手した毎日新聞が、昨年11月24日付の朝刊でこう伝えている。
〈首都圏に灰が降る日〜富士山噴火の想定 降灰で首都圏6割避難 物資も届かず。政府試算〉
その資料には富士山噴火の被害想定について、衝撃的な数字が並んでいたのだ。
〈噴火による降灰で通行止めになる道路が日々増えるなどして、噴火から2週間後までには首都圏の人口(約4433万人)の約6割に相当する住民(=2700万人)に物資が届かない状況に陥る可能性がある〉〈送電線への降灰のため停電に遭遇するのは約3600万人〉〈火山灰の影響や木造家屋が倒壊するほどの降灰などにより避難が求められるのは最大で首都圏の人口の約6割に当たる2670万人〉
(いずれも毎日新聞同日の朝刊より)
2700万人に物資が届かないうえに、3600万人が大規模停電に遭遇。恐ろしい数字がいくつも躍っているこの非公開資料は、宝永噴火での降灰などを参考に、「もし現代社会に大規模噴火が起きた場合、どの地域にどの程度降灰被害が及ぶのか」について検討し、作成されたものだ。
宝永噴火では富士山の火口から16日間連続で火山灰などが放出され続けた。その量なんと17億立方メートル。富士山周辺の山梨や静岡はもちろん、灰は偏西風に乗って千葉や茨城にまで到達。静岡と神奈川の県境では60センチ以上、藤沢付近で約16センチ、東京でさえ4センチ以上も積もったことがわかっている。
防災の日、振り返るのは関東大震災だ。しかし、関東にそびえる名峰・富士山の噴火周期が気になる。
「火山灰はたった1センチ積もるだけで、生活環境が激変します」というのは、オールアバウトガイドで災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏だ。
「まず、火山灰が0・5ミリ程度積もると電車が運行できなくなります。レールの表面が灰で覆われると、レールと車輪の間で通電不良が生じ、電車の位置情報を検知できなくなるためです。
また、道路に2センチ以上降灰するとスリップが生じ、通行不能になるというデータもあります。たとえ自分の車が運良く通行できたとしても、道路が1車線しかない場合、一台でも車が止まれば、通行ができなくなります。
飛行機もまた、エンジンに灰が入る危険があることから、まったく飛ぶことができません」
陸も空もたった数センチの降灰で封じられ、首都圏の交通網は完全に麻痺してしまうのだ。
そしてもう一つ恐ろしいのが、停電である。
「電柱などに付けられた絶縁体に火山灰が付着し、それが雨に濡れると漏電が起き、停電につながる可能性があります。実際、'16年の阿蘇山の噴火では、噴火からまもなく一帯に大規模停電が発生しました」(和田氏)
他にも降灰によって水源が汚染された場合、飲み水として利用できなくなったり、灰によって排水溝などが詰まると、下水道の使用が制限されトイレが使えなくなってしまうなどの問題が次々と生じる恐れがある、と和田氏は指摘する。
※この記事は「週刊現代」2024年1月27日号の記事を再編集したものです