近年、配偶者に先立たれ身近に親族などがいない人、独身者の単身世帯が増加、では入院や施設入所などの際に求められる「身元保証」や、買い物や通院の付き添いなどの「日常生活支援」、はたまた亡くなったあとの葬儀や遺品の処分などの「死後事務」を誰が担うのか。これまでは、一手に嫁や、娘が当てにされる者だったが、女性も仕事を持つ時代になっている。そこで、「高齢者等終身サポート事業」の必要性に国が動き出すことになりましたが、スタートしたばかりであり、実態はどうなのでしょうか。既存の「介護保険」といった制度では補いきれない部分のニーズを引き受ける形で利用者が増えているとみられます。
事業を利用している殿岡さえ子さん(71)は都内で1人暮らしをしていて、交通事故の影響で高次脳機能障害があるほか、腰椎に痛みもあります。そのため、月に数回のクリニックへの通院時には、事業者の付き添いサービスを利用していて、この日は男性スタッフが診察に立ち会い、医師の問診を一緒に聞いたり、骨折予防の注射を打つのを見守ったりしたほか、受診料の支払いなどをサポートしていました。
殿岡さんは「今は特に体の具合が悪いので重い荷物を持ってくれたり、一緒にあちこち連れて行ってくれたりするのはとても楽で助かります」と話していました。
こうしたサービスは、事業者との契約に基づいて行われ、支援は亡くなったあとまで続くことから契約が長期にわたるのも特徴です。そのため、この事業者は利用者の容体が急変したときに備え、受けたい医療や最期に過ごしたい場所などの要望を定期的に確認しているほか、亡くなった後に備え、葬儀や納骨などを行うことをあらかじめ定める契約も結んでいます。
身元保証などを行う事業者の小池安喜さんは「利用者が元気なうちからいざというときの希望や思いを聞いておくことではじめて本人の意思を代弁することができます。高齢で身寄りがなければ、生活に不備が生じる場面が現実にはあり、支援を通じて安心につなげられればと思います」と話していました。
「身元保証」などを行う事業のニーズが高まる中、独自に事業者の質の確保に取り組み始めた自治体も出てきています。
静岡市ではことし、契約ルールや解約時の返金手続き、利用者からの寄付の扱いなどの基準を新たに定め、条件を満たす場合に限って3年間「優良事業者」として認証する制度を導入しました。
認証の取得を希望した事業者に対しては市がヒアリング調査などを行い、支援や契約の内容、個人情報の取り扱いなど市の定めた基準にのっとった運用をしているか、細かく確認します。そして基準を満たすと確認できれば「優良事業者」として認証します。しかし、基準は30項目以上と多岐にわたるため、認証を得たのはまだこの1法人だけです。
今後どれだけ公的な枠組みの中で「身元保証」などの事業の普及が進むかが課題になっています。認証事業を始めた静岡市地域包括ケア・誰もが活躍推進本部の担当者は「市が一定のルールを作って事業者の質の確保に関わることで、一人暮らしで困っている高齢者が安心して過ごせるよう、終活支援の手伝いができればと考えています」と話していました。
静岡市内で唯一の認証を受けた事業者で、社会福祉法人「まごころ」の田中努さんは「何もルールがない中での運営は高齢者からすればどの事業者を選んだらいいかわからず戸惑う一方、私たちも手探り状態で支援をするには不安があったので、認証という形でルールを設けてもらえるのはありがたいです。いま多くの高齢者に求められる大事な事業だと思うので、これからは自信を持ってサービスを提供していきたい」と話していました。
「身元保証」などの問題に詳しい日本総合研究所の沢村香苗研究員は、事業者向けの指針の案が初めて示されたことについて、「身寄りのない人の増加とともにこれまでは家族が担ってきた役割を代行するサービスへのニーズが高まる中、今回、指針が示されたことで事業者の質をある程度担保して高齢者に不利益がないよう手だてがとられた意義は大きい」と話しています。
その上で、今後の課題については「事業を監督する官庁がない前提は変わっていないので示された指針を事業者がしっかり守れているか、守らなかったらどうなるのかといった実効性や仕組みの検討が必要です。また、支援は有償なので、経済的な事情や判断能力が十分でないなどの理由で利用できない高齢者への対応も考える必要がある。そして、事業者がいるからといって全部を担ってもらおうとすると負荷が高まるため、自治体や地域のほか、親族がいる人はその力も借りて身寄りがない人をより多くの人で高齢者を支えていく体制づくりを目指すべきだ」と話していました。
出典 NHK4月21日つづき