歩くのもだるい、頭使うのもだるい、人と会うのも、遊びに行くのも、ましてや仕事するのもだるいとなって、何もしないようになると、老化は一気に進みます。逆に言うならば、意欲を保ち続けて、歩くことを続ける、頭を使い続ける、仕事を続けると、確実に老化は遅れると思います。
だから、ちょっとぐらい億劫に感じるからといって、簡単にいろんなものから引退しないほうがいいんです。家事や仕事、運転、趣味……老化を遅らせたかったら、引退してはいけないと僕は思っています。
前頭葉は、側頭葉や後頭葉に比べて成熟するのが遅いのに、衰えていくのは早いと言われています。画像診断すると、40代ごろから萎縮が見えるようになり、放っておくとどんどん萎縮が進んでいくのが確認できます。これは病気ということではなく、老化にともなう現象なのです。
もの忘れをしたり、記憶力の低下が始まって、多くの方は脳が老化したなと心配したりするのですが、実はそれ以前に、前頭葉では老化が進み、それによって意欲の低下が起こります。つまり、順番としては先に「覚える意欲」が低下し、その後、記憶力も低下していく。覚える気力がないから、覚えられなくなるということです。
この前頭葉は、意欲のほか、思考、創造、理性などにかかわっています。怒ったり、泣いたりするような原始的な感情ではなく、より高度で人間的な、好奇心や感動、共感、ときめきといった微妙な感情を担っているんですね。この部分が衰えると、意欲が低下したり、感情のコントロールが利かなくなったり、想定外の出来事に柔軟に対応するのが難しくなったりします。
年をとると、変化に対応して生き残るための脳が衰えてしまう。だから、新しい技術や世の中の変化についていけず、取り残されたような気分になるんですね。意欲の低下は、記憶力の低下以外にどんなことを起こすんですか。
和田意欲の低下は、いろんな老化を進めます。歩くのが億劫、外出するのが億劫だといって家のなかに閉じこもってばかりいると、足腰の筋力が弱くなってしまいますね。はじめは「歩かない」状態が、足を使わないことで「歩けない」体になっていくのです。これを廃用症候群と言いますね。
外出しなくなると、人と会って話したりする機会も減ります。人と話すには脳を使いますし、楽しく話すにはいろんな話題に興味を持っていたり、話の組み立ても練らなければなりません。人と会って話す、これだけでもかなり脳の老化予防になるのです。なのに、意欲が低下してしまうと、外出も、人と会う機会も減って、要介護状態へとまっしぐらなのです。
樋口やっぱり、人間がいきいきと活動するおおもとは、意欲なんですね。
和田高齢になってもいきいきしている人は、病気にならないように健康に気を使ってきたという人よりも、好きなことをやって生きていて、気がついたら90歳を過ぎていたという人のほうが多いのです。車いすになっても、多少のもの忘れがあっても、やりたいことをやるという意欲があれば、心は若々しく、はたから見ても楽しそうにしています。そうやって最後までやりたいことをやって生きた人は亡くなるときに「あれをやっておけばよかった」と後悔することなく、自分の人生に納得してこの世を去れるように思います。