「老いることで環境が変化しても、自分なら対応できる」と思えなければ、その環境でも楽しく過ごそう、新しいことをやってみようとは思えないからです。「自分はできると信じる力があるか」です。
心理学的には、自分が置かれている今の環境を受け入れる「自己受容」ができていること、自分ならできると信じられる「自己効力感」が、老いることが不安になる人、ならない人の決定的な違いです。
老いを前にして不安になるのは当たり前のことなので、不安になってしまう自分を責めないことです。そして、大切なのは「今、ここ」に意識を向けること。啓発書などに「死ぬまでにしたいことリスト」を書くワークが紹介されていることがありますが、不安を感じやすい人にこういうワークは向きません。老いるという「未来」に意識を向けて何かをする必要はなく、今の自分を労うだけで十分なのです。
「今、ここ」に意識を向けるためには、ふだんから五感を使って「今感じていること」を味わうことです。例えばカフェに行ったら「コーヒーの香り、癒される」と嗅覚を意識したり、散歩する時は「かわいい鳥のさえずりが聞こえる」と聴覚を意識したりするようにしてみましょう。
老いることに不安を感じている人は、今、日常生活をどう過ごしているかを具体的に列挙してみるのが得策です。
心理学では、過去や未来に捉われず、思考や感情に振り回されることがないように、「今ここ」に意識を集中するマインドフルネスの実践を勧めています。また「禅」では「人生は今この瞬間の積み重ねである」と教えています。
今をいかに大切に生きるのか? 毎瞬、私たちは選択を迫られていて、その選択の一つ一つが最終的には私達の人生を形成するのです。今この瞬間の選択や行動が未来の自分を作る上で重要であると認識しておくことが大切です。今満ち足りた状態を選択すれば、将来もそうやっていられるのです。
人は「過去は変えられないけれど、あれがあったから今の自分がダメだと思うのではなく、あの過去があったから今の自分があると考えた方がいいですよ」と伝えると、納得される人がとても多いです。
老いることに対する不安を相談されるのは女性がが多いのですが、決して女性特有の不安というわけではありません。女性のほうが感情を吐き出しやすい傾向があるだけで、弱音を吐けずに不安の中にいる男性は多いのです。
老いることに対する不安を感じてカウンセリングに来られる方は、元々、対人関係の悩みが多い、相手に気を遣いすぎて疲れてしまう、健康への不安を感じやすいといった傾向があります。60代、70代になるとその備えてがある程度きることはあります。
1つの解決策が適度な運動の習慣をつけることです。様々な研究から、うつ病の発症予防や再発予防に運動が有効であることが分かっています。具体的には筋トレのようなハードな運動よりも、1回20〜30分程度の有酸素運動を週3〜5回程度する方がいいといわれています。例えば中程度の強度で早歩き、ジョギング、サイクリングなどです。
もう1つは食事です。不安になってしまう人は、食生活を疎かにしている方が多いことです。甘いものを食べ過ぎていたり、考えるのが面倒だからとファストフードなどの手軽な食事で済ませていたりするのですが、糖質を過剰に摂取すると焦燥感を引き起こしやすくなります。また、ダイエットのつもりで食事を軽く済ませるようにしているのもよくありません。血糖値が急激に上がらないように野菜、たんぱく質、炭水化物の順に食べるようにするだけでも効果があります。
ご自身の親御さんが老いることへの不安を抱えているケースも、自分の身の回りの大きな変化です。そうした場合は、まず一生懸命話を聞いて受容することが大切です。この時「バックトラッキング」という方法を覚えておくとよいでしょう。「そうだよね、不安になるよね」と相手が発した言葉をくり返して言ってあげることで、相手は安心感を得ることができます。
先に備えることが万全なのではなくて、今、対処できることを知っている、それで大丈夫と自身を納得させて、やり過ごしていくのが自然で焦りをなくす方法といえます。
つづき