元中国代表選手で、後にルクセンブルクに帰化した、上海市生まれの卓球選手、ニー・シャ・リエン。50年以上も卓球を続けている。そのうちトップレベルに君臨した期間はおよそ40年。1983年に東京で行われた世界卓球選手権に初めて出場し、2種目で優勝。この大会に出場した回数は23を数える。
ドイツに移住して、ルクセンブルクにて結婚、1991年からはルクセンブルクの代表選手となった。ルクセンブルクでは、1日中卓球に打ち込むことはできないし、そうもしない。それでも継続して結果を残せていることに、ただただ驚くばかりだ。
「年齢のせいで、若い頃のように練習することはできません。私にとって一番大切なことは、怪我をしないこと、体調を崩さないことです。身体をいかに正しく休ませるかも重要です。体力を維持するためにかなりジムに通っていますし、回復のために理学療法士にも診てもらっています」
ニーは2019年のOlympic Channelの取材で、ふたりの子ども(当時27歳と16歳)、母親(当時88歳)、そして夫であるトミー・ダニエルソン・コーチと一緒に暮らしていると語っていた。常に彼女をサポートする家族は、競技よりも優先される。
「家族がいて、責任もあるので、卓球をする時間はあまりないんです。練習はあまりしないけれど、すべてのことをバランスよくこなすことが、卓球の調子を整え、パフォーマンスを維持するために大きな役割を果たしています」
2021年、58歳で2020年東京オリンピックの女子シングルスに出場した。これは、オリンピックの卓球選手として最年長記録であった。2021年の世界選手権の女子ダブルスではサラ・デナットと組んで3位となり、1985年大会(銀メダル)以来のメダル獲得となった。
現在、デナットとのコンビで世界ランキング女子ダブルス3位につけているニーは、衰えを知らない。彼女が心に留めている言葉は「活到老学到老」という中国語の慣用句で、文字通り「老いるまで生き、老いるまで学ぶ」ことを意味し、一般的に「学ぶのに遅すぎることはない」と訳されるものだ。
「これは私がいつも考え、実践していることです。他にもありますよ。『明日の自分より今日の自分がいつも若い』というフレーズも、私のモチベーションを高めてくれます」
ニーは、年齢を重ねるにつれ、特に敗北を喫した後は弱気になるという。
「最近、自分は年齢的にもうダメなんじゃないかと思ったんです。試合を振り返ってみると、自分がうまくプレーできなくなったから負けていると思い、知らず知らずのうちにコート上で諦めて、ペースを落としていたのだと思います」
「でも、その後、『いや、それはおかしい。バカなことをしている』と思い直しました。今日の私は明日の私よりも常に若いという結論に達し、(その気づきに)勇気づけられています」
2022年の世界選手権でニーは世界ランキング女子シングルス16位のチョン・ジヒ(韓国)を破り、ルクセンブルクを3-1の勝利に導いた。
「フィールドの外にいるときは、自分の年齢を考えてしまいます。フィールドの中では、そんなことは考えず、ただひたすらすべてのポイントで勝とうとしています」
「技術と経験を上手に生かせています。これはとてもラッキーなことです。誰もが一番になりたいと思いながら、成功しないことが多いわけで、今回は私が結果を残すことができました」
「技術を向上させつつ、敏捷性を維持できるように努力しています。そのおかげで結果を残せています」
「自分にはそんなに多くの能力はないのですが、努力や、積み重ねることの精神があってこそ、多くの人が私を見てくれているのだと思います。私たちの世界全体がコミュニティーなのです。上向き(ポジティブ)の精神で、スポーツマンシップを存分に発揮できれば、多くの人の心に響くと思います」
「スポーツにおけるハードワークの精神に終わりはありません。私の努力の原点はそこにあります」。