老化による細胞の変化、筋肉や内臓のタンパク量の減少など、現在、解明されている老化現象に対する知見は、知ったところで上手に老いられるわけではありません。老いを遅くする方法のノウハウや指導はありますが、気休め、あるいは当たるも八卦当たらぬも八卦の眉唾ものも多く、類いがほとんどです。
老化を遅くする方策(運動、食事、サプリメント、薬剤など)を講じて、若く見えても、そもそもが元来若見えで、内臓機能が丈夫である可能性があります。
厳密に効果を証明するためには、ある方策を講じたグループと、講じていないグループを無作為に分けて、大規模で長期間比較しなければなりません(「大規模無作為化比較試験」といいます)。そして、運動機能、記憶力、神経伝達速度などの若々しさの指標をどう決めるのか。指標をきめたとしても、老いの確認ができて楽に老いられるのかというと、気持ちの持ちようや暮らし方、また、資産の運用の仕方で老いの受け止め方が違います。
実は、老後のための貯蓄は、ほとんど使わずに終わってしまうケースが少なくない現実があります。
FRB(米国の中央準備制度理事会)の調査に基づくデータで、なんと、70代になっても人はまだ未来のために金を貯めようとしていることもわかったのです。何十年もかけて資産を増やし続けても、使って人生を楽しむ、使い切ることをしない人が多い。
老後のために貯蓄する習慣性では、退職しても、その金を十分に使えない、使っていないのです。休暇も棚上げで勤務する社会習慣もあって、稼いだ金は、結局使われず争族になっては、何のためだったのでしょう。時間と金をどのように使うかについて、実は十分に考えてはいないので、退職後の人生にワクワクがやってこないのではないか。
年を取ると医療費もかかる可能性があるので、人は金を使わなくなるが、巨額の医療費がかかるかどうかは、冷静に見極める必要がある。つまりは、老後に備えすぎるのは大きな勘違いです。その貯蓄への価値観が惰性のようになっている、貯めたお金は上手につかい、場合によって消費や寄附が、社会の循環に役立つ投資なのだとの見方になれば、投資の上下にドキドキ、ワクワクもあるのです。そういう、社会投資もあってもいいのではないでしょうか。
参照HP
久坂部羊:'55年大阪府生まれ。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、医務官として外務省勤務などを経て、'14年『悪医』で第3回日本医療小説大賞受賞。著書に『廃用身』『老乱』『介護士K』など
ダイヤモンド・オンライン(12/21)
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