子連れの親が街頭に立ち、政策を訴える――。統一地方選ではそんな光景が各地で見られるようになった。「子連れ選挙」が注目を集めるようになったのは、昨年夏の参院選東京選挙区に立候補した田村真菜さん(34)の訴えがきっかけだ。
しかし、18歳未満の選挙運動を禁じる公職選挙法に違反する恐れがある。子供を連れての選挙活動は、公職選挙法に抵触するかはっきりせず候補者を悩ませていたが、今年3月、違反となる事例を政府が具体的に示した。少子化が進む中、子育て世代の訴えが政治に届くきっかけとなるのか。法律の手直し程度で改善がなされるのはほんのわずかな局面だろう。
田村さんは公示前、都選挙管理委員会から「選挙期間中に子供を抱っこしたり手をつないだりして活動すると公選法に抵触するかもしれない」と説明を受けた。だが、長男(4)を保育園に預けられない時は、連れ歩かざるを得ない。演説中はお菓子を持たせ、離れたベンチで待たせたが、疲れてむずかる時は、やむなくおんぶして演説し、「これって違反なの?」と不安になったこともあるという。
そもそも育児中の親にとって立候補までのハードルが高い。昨年、育児中の地方議員ら21人に聞き取りをしたところ、立候補のために仕事をやめた結果、「就労中でなくなる」として、保育所から退所を求められたケースがあった。家族が選挙を手伝うために子供の世話に手が回らず、ベビーシッターを雇うとなると、「シッターはお金がかかるし、地方では利用できない」との意見もあった。
東海大の辻由希教授(政治学)は「地方議員はこれまで男性に偏っていたが、社会の多様化が進む今、様々な世代や背景を持つ人が議員になるべきだ。子育て世代の立候補が進むよう、政府には子供を預けて選挙に臨めるような環境整備を進めてほしい」と指摘する。
各全国議長会の調査によると、全国の地方議会で、子育て世代にあたる20〜40歳代の議員が占める割合は、都道府県議で28・7%(2019年7月現在)、市区議で19・5%(22年7月現在)、町村議で9・7%(同)にとどまる。子育て世代は議会内で少数派だ。
議会側が出産や育児、介護に配慮する取り組みは拡大している。各全国議長会などによる働きかけの結果、議会の欠席理由に「育児」を認めた市区町村議会は22年の調査で88%に達し、3%だった20年から大きく前進した。授乳や託児のスペースを設ける議会も増えているという。
出典 読売新聞(4/14)