東京都健康長寿医療センター研究所の村山洋史氏は、高齢者が孤独に陥りやすい背景として、特有の外的要因や環境変化を挙げる。
「高齢者が孤独に陥りやすい最大の原因は、病気など加齢に伴う体の衰え。日常生活が制限される感覚や楽しみが失われる不安感は、孤独の引き金になる。また、知人との死別や入院の影響によって、町内会などのコミュニティとの関わりや外出の機会が減ると孤独感に直結しやすい」
そのため、「『ボケ防止のため』と言ってクロスワードパズルや数読の専門雑誌を買い始めた」(50代・男性)といった急な変化には注意が必要だという。村山氏が続ける。
「孤独の兆候として笑顔や口数の減少が挙げられますが、人前では元気でも裏で孤独を感じている人もいます。実はペットを飼っている人は孤独を感じにくいという研究があり、逆説的な言い方ですが、急に『ペットを飼いたい』と言ったら、孤独を感じている可能性があるかもしれません」
では、孤独の対策法は?
「対面による非言語のコミュニケーションが重要。オンラインでは、孤独感を低減する効果は限定的という研究結果があります」
孤独は病院に行けば治る問題ではないからこそ、身の回りの人たちがシグナルを見逃してはいけない。
また、「自分はできると信じる力があるか」です。「老いることで環境が変化しても、自分なら対応できる」と思えなければ、その環境でも楽しく過ごそう、新しいことをやってみようとは思えないからです。
心理学的には、自分が置かれている今の環境を受け入れる「自己受容」ができていること、自分ならできると信じられる「自己効力感」が、老いることが不安になる人、ならない人の決定的な違いです。
では、老いることに対する不安に支配されないためにどうすればいいのでしょうか。そもそも老いを前にして不安になるのは当たり前のことなので、不安になってしまう自分を責めないことです。
そして、大切なのは「今、ここ」に意識を向けること。「今ここ」に意識を集中するマインドフルネスの実践を勧めています。また「禅」では「人生は今この瞬間の積み重ねです。
今をいかに大切に生きるのか? 毎瞬、私たちは選択を迫られていて、その選択の一つ一つが最終的には私達の人生を形成するのです。今この瞬間の選択や行動が未来の自分を作る上で重要であると認識しておくことが大切です。今満ち足りた状態を選択すれば、将来もそうやっていられるのです。
60代、70代に備えてできることはあります。1つが適度な運動の習慣をつけることです。様々な研究から、うつ病の発症予防や再発予防に運動が有効であることが分かっています。具体的には筋トレのようなハードな運動よりも、1回20〜30分程度の有酸素運動を週3〜5回程度する方がいいといわれています。例えば中程度の強度で早歩き、ジョギング、サイクリングなどです。
もう1つは食事です。不安になってしまう人は、食生活を疎かにしている方が多いことです。幸せな気持ちになれるからと甘いものを食べ過ぎていたり、考えるのが面倒だからとファストフードなどの手軽な食事で済ませていたりするのですが、糖質を過剰に摂取すると焦燥感を引き起こしやすくなります。よく言われることですが、血糖値が急激に上がらないように野菜、たんぱく質、炭水化物の順に食べるようにするだけでも効果があります。
出典 現代ビジネス
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