2023年09月25日
熱海富士、いい四股名です
初土俵から18場所目で、東前頭15枚目・熱海富士はもうちょっとで賜杯に手が届くところまでにきていた。しかし、本割で大関経験者の西前頭2枚目・朝乃山に寄り切られると、4敗で並んだ大関・貴景勝との優勝決定戦では変化され、はたき込まれた。もし、初Vなら年6場所制となった1958年以降初土俵(幕下、三段目付け出しを除く)では最速記録となるのだったが、記録ずくめの賜杯は来場所以降へお預けとなった。
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熱海富士こと武井の高校生3年時には、世界でコロナが大流行した年だった。高校総体など主要の全国大会は、すべて中止になる不遇の代。目標を失いかけてもいい状況で、18歳の武井はすぐに“未来”へ、気持ちを切り替えていた。
飛龍高出身の力士は、初場所の新弟子検査を受けて前相撲デビューする。3月上旬の卒業式を済ませ、初めて番付表にしこ名が掲載される春場所で本格的に力士人生が始まる。そんな前例を覆して、武井は2020年11月場所の前相撲で初土俵を踏んだ。
早期デビューはコロナの影響が大きかったが、「一日でも早く稼ぎたい」という思いも人一倍強かった。女手一つで育ててくれた母親・奈緒さんと妹・陽奈さんを、すぐにでも楽にさせたい。そんな覚悟が初土俵後の21年初場所で序ノ口、同3月場所に序二段と連続優勝。年6場所制以降では8位タイ(高卒では最速タイ、幕下付け出しは除く)のスピードとなる所要12場所での新入幕につながった。
見えない敵に高校最後の年を台無しにされた男が、家族愛で優勝決定戦に出場するまでに出世した。「静岡勢初の幕内V」という歴史的快挙は、次場所以降に成し遂げる。久しぶりの日本人力士の有望株、ハングリー精神で家族を思う気持ちが誰よりも若い力士を強くする、今どきの若武者ぶりに地元の皆が鼓舞されているという。