東京電力福島第1原発の敷地内にたまる処理水の海洋放出が8月24日から始まった。これを受けて中国は日本産水産物の全面禁輸を発表、漁業者らは風評被害への懸念を強めている。東京電力ホールディングス(HD)の小早川智明社長は「適切に賠償していく」としているが、どのような損害が賠償の対象になるのだろうか、不安視されている。
日本メディアでは「なぜ中国はこれほど強烈な反発を」という視点から報じられていたが、今回は、中国政府は人民の焚きつけには抑制的だった。日本の水産物全面禁輸という強硬措置をとり、日本への強硬姿勢と人民の健康を守るというポーズを示した一方で、それ以上には踏み込まなかった。今回はネット世論を取り締まるなどのブレーキは踏まなかったものの、焚きつけるアクセルも踏んではいない。
続いて民間レベルだが、処理水に関してさらに注目が高まるような続報がなかったことはポイントだろう。東京の飲食店で「中国人へ 当店の食材は全て福島産です」と書かれた看板が掲げられたこと、橋下徹・元大阪府知事がネット番組でホタテ10個を食べることを中国人の入国条件にしようと発言したことなどは中国のSNSでも取りあげられていたが、炎上を加速させる材料とはならなかった。
上海市などの大都市、リテラシーの高い中産層以上に限られているのかもしれないが、中国経済の成長に伴い成熟した層が増えているのではないか。中国をひとくくりで語れないことは認識すべきだろう。
国民が処理水のことを話題にしなくなったとしても、水産物全面禁輸という措置はそう簡単には撤回されないということはこちらも覚えておくべきだ。狂牛病問題を受けての日本産牛肉の禁輸措置は2021年の解除まで18年間にわたって継続された。
福島原発事故を受けての10都県(福島、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野)の食品、水産物の禁輸は12年が経った今も解除されていない。日本政府は中国以外の販路拡大や加工場整備などの支援策を表明しているが、短期での解除はないという前提での、しっかりとした取り組みが必要になる。