ともすれば「徹夜自慢」に代表されるように、睡眠を削ることを誇る向きもいるのだが、きちん睡眠をとることは、成功のための戦略として正しい――作家・橘玲氏の新著『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)では、科学的なデータをもとに睡眠の効能を説いている。「合理的な人生設計」に睡眠は欠かせないというのだ。そのロジックを見てみよう(以下、特に記述がない場合、鍵カッコ内は同書からの引用)。
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マシュー・ウォーカー『睡眠こそ最強の解決策である』もあり、昼寝の効能についてこう説く。
「現代社会では朝起きたら夜まで寝ないのがふつうだが、これは工場労働に合わせた近代の習慣で、狩猟採集社会を見れば、昼に短い睡眠をとる『二相睡眠』が進化の適応であることがわかる。スペインやギリシアなどの南欧では最近まで昼寝(シエスタ)の習慣があり、それをやめたところ、心疾患などが急増したとの報告もある」
そういえば、大谷選手も昼寝の習慣があることを明かしている。
大谷選手がどれだけ睡眠に気を使っているかについては、以前の記事(大谷翔平の大活躍を支えた寝具メーカーが明かす「睡眠への徹底したこだわり」 機内にマットレスを持ち込み、睡眠時間は? )でもご紹介した通りである。
この記事によれば、大谷選手は睡眠の時間のみならず質も重視しており、それを測定するためのバンドも着けているという。
さらに、日ハム時代からの付き合いである寝具メーカーの西川は2年に1度、体形や筋肉量を測定したうえで、ピッタリの寝具を提供している。その枕には調整機能が14カ所あり、ベストな高さになるようにしてあり、マットレスにいたっては120万点もの身体データを計測したうえで作られているというのだ。この枕やマットレスを遠征先にも持ち込んでいるというから、睡眠へのこだわりようがわかるというもの。
もちろん一般人がここまでこだわる必要もない。ただし、睡眠が健康に大きく関係するのは動かしようのない事実だろう。そして睡眠の重要性は動物実験でも証明されていて、ラットを眠らせないとわずか平均15日で死亡するという。
「睡眠を奪われたラットは体中の肌がぼろぼろになり、足や尻尾も傷だらけだった。死後の解剖では、肺に液体がたまり、内出血があり、胃の内壁にはあちこちに潰瘍ができていた。肝臓、脾臓、腎臓などの内臓はサイズも重さも減少していたが、ストレスに反応する副腎は逆にかなり大きくなっていて、副腎から分泌されるコルチコステロン(不安と関係があるホルモン)の量が突出して多かった」
研究者たちが導き出したラットの死因は、「睡眠を奪われたことでラットの腸内にいたバクテリアによる敗血症」で、代謝機能だけでなく免疫機能もまともに働かなくなったことで、通常ではなんの問題もないバクテリアが暴れ出して生命を失うことになったという。
夜の10時から午前2時は本当に「睡眠のゴールデンタイム」なのでしょうか。結論からいうと間違いです。睡眠中には成長ホルモンが分泌されますが、何時から何時が分泌の時間帯と決まっているわけではありません。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、寝始めの約3時間には眠りの深いノンレム睡眠が現れます。成長ホルモンはこのとき集中的に分泌され、その量は日中の4〜5倍になるといわれています。つまり時間帯ではなく、寝入ってからの最初の3時間がカギを握っています。何時に寝たとしても、寝入りの3時間にぐっすり眠れていれば成長ホルモンはしっかりと分泌されるのです。寝入りの3時間に深いノンレム睡眠を得るには、寝つきをよくすることが大切です。
遅くとも就寝の2〜3時間前までに適度な運動するのを習慣にするのがおすすめです。自転車こぎ、水泳、ウォーキングやジョギング、などの有酸素運動を続けると寝つきがよくなります。適度の疲労感があるとぐっすり眠れるものです。
環境にいても感染するかどうかは、免疫力によって異なります。そして、免疫力を考える上で、睡眠はとても重要な役割を果たすのです。実際に、カリフォルニア大学で健康な164人の被験者に点鼻薬で風邪ウイルスを投与し、睡眠時間別の発症率を調べたところ、睡眠時間5時間未満の人たちは7時間以上寝る人に比べ、発症率がおよそ3倍にもなりました。睡眠には、細菌やウイルスに対する抵抗力、つまり自然免疫を強くする効果があるといえるのです。
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