“日本は先進国であり、社会インフラは世界最高クラスに整っている”と思っている人も多いかもしれない。
しかし国際データを集めると、実際にはとても先進国とは言えないほど社会インフラはボロボロだった…『世界で第何位?-日本の絶望 ランキング集』 (中公新書ラクレ)より、一部抜粋・再構成して公開する。
◆地方の下水普及率は途上国以下
日本の社会インフラが遅れている分野は、たとえば下水道である。現代人にとって、生活排水は下水道によって処理されるものであろう。それは日本だけではなく、世界中でそういう傾向になっている。
が、日本の地方では、下水道が通じていないところがけっこうあるのだ。
現在、日本全体の下水道の普及率は約80%である。ヨーロッパの普及率とほぼ同じ程度だ(表4)。
だから、これだけを見ると、日本の下水道普及に問題があるようには見えない。しかし、これにはカラクリがあるのだ。
日本の場合、人口の4分の1が首都圏に住むという極端な人口集中がある。首都圏や都心部には下水道が整備されているため、必然的に下水道普及率が上がっている。地方から首都圏に人口が流入すれば、何もしなくても、下水道の普及率(人口比)は上がるのである。
しかし、日本の場合、地方では下水道の普及率が、先進国の割に非常に低いのだ。50%を切っているところも珍しくない(表5)。
下水道がない地域では、各家庭が浄化水槽を準備しなくてはならないなど、余分な負担が大きい。
徳島県の下水普及率は18.7%
たとえば島根県は51.3%である。
島根県は、90年代の公共事業大濫発時代に、竹下登元首相らのおひざ元として、全国でも有数の公共事業受注地域だったが、下水道の普及工事はほとんど行っていない。
下水道の普及率で、特にひどいのは四国である。4県のうち3県が50%を切っている。
坂本龍馬のような開明的な人物を生んだ高知県だが、41.2%である。
徳島県に至っては18.7%。なんと県民のほとんどは、下水道のない生活を送っているのだ。この数値はアフリカ並みである。広大な砂漠、ジャングルを持つアフリカ大陸と徳島県は、下水道の普及率に関する限り、ほぼ同じなのである。
他にも、鹿児島、香川などが50%を切っている。
このような地方のインフラ整備の遅れが、一極集中を招いたとも言える。もちろん、下水道だけでなく、さまざまなインフラを含めての話である。地方の人は、インフラの整っていない地元を捨て、都会に出てくるのだ。
つまり、それで地方はどんどんさびれていくのだ。
80年代、90年代に行われた狂乱の大公共事業では、道路や箱モノばかりがつくられ、下水道の普及はそれほど進まなかったのだ。当時、ちゃんと予算を下水道に振り分けていれば、いまごろ、日本では、国の隅々まで下水道が普及していたはずだ。
「水洗トイレ」がない家が未だに多い
下水道の整備が遅れているということは、当然、住環境にも影響している。
OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で「水洗トイレのない家」の割合が高い順にランキングで日本は6位に入っている。
ここにランクインしている国々は、南米国、旧共産圏国など、社会インフラ整備が先進国に比べて遅れている国ばかりである。日本と似た住環境の歴史を持つ韓国と比べても、日本はかなり遅れているのである。
四国と本州には3本も架橋されているのに
ここで大きな疑問を持たれないだろうか?
莫大な公共事業費が何に使われてきたのか、と。前述したように、日本は先進国で最も公共事業が多く、しかも90年代には現在の倍近くの額を投じてきた。しかし、まるで、この莫大な額のお金がどこかへ消えたかのように、社会インフラを整えた跡が見られない。
実際、何に使われたかというと、「無駄な道路」などがあげられる。
人影もまばらな駅の周辺が美しく整備されていたり、車がめったに通らない場所に立派な道路があったり、さびれた街並みに巨大な建物が現れたりがある。そういう地域には有力な国会議員がおり、その議員に群がる利権関係者がいるのだ。
政治家は、自分を支持する建設土木業者のために、公共事業を地元に誘致しようとする。必然的にその業者が得意な公共事業ばかりが予算化されたのだ。道路工事が得意な事業者には道路工事を、箱モノ建設が得意な事業者には箱モノ建設を発注するという具合である。
となると、その地域には、道路工事ばかり行っている地域、箱モノ建設ばかりを行っている地域という具合に非常に偏った公共事業ばかりが行われることになる。だから、莫大な公共事業費を使っていながら、日本のインフラはボロボロなのである。
わかりやすい例を一つ挙げよう。
80年代後半から2000年代にかけての公共事業で、この時期、四国と本州の間には、なんと3本の橋が架けられたのだ。
その一方で、四国では基本的なインフラ整備が遅れており、前述したように下水道普及率が世界的に見ても非常に低い。
◆街中に電柱があるのは先進国で日本だけ
日本人は電柱のことを「電気を通すためになくてはならない設備」と思っており、街中に電柱があることをまったく不思議に思っていない。
しかしこの電柱は、先進国にはほとんどないということをご存じだろうか?
先進国の大半で、電線は地中に埋められている。先進国の中で、これほど電柱があるのは日本だけなのだ。
いや、先進国だけではなく、世界全体で見てもこれほど電柱がある国というのは珍しい。
台北でも、ほぼ無電柱化が達成されている。韓国の首都・ソウルも、50%近くまで進んでいるのである。
フランクフルト、香港でも100%近い無電柱化が進んでおり、ニューヨークは80%以上、インドネシアのジャカルタでも30%を超えている。
東京の8%、大阪市の6%というのは、異常に低い数値である。
電柱は、地震や台風などの災害時に大きな危険要素となる。地震や台風が頻発する日本こそ、無電柱化をどこよりも進めなくてはならないはずなのに、台風や豪雨のたびに、どこかしらで大規模な停電が発生している。たとえば2019年9月の台風15号では千葉県を中心に90万戸で停電が発生し、3週間近く復旧しない地域もあった。これらのことは、電線を地中化すればかなり防げたのである。
無電柱化の推進というのは、阪神・淡路大震災のころから言われていた。が、30年経っても、まったく進んでいないのだ。
無電柱化の費用というのは、日本では、国、地方、電力会社の三者が3分の1ずつ負担することになっている。しかし、これは国が主導して行ってもいいのだ。
日本は90年代に公共事業に巨費を投じて、現在でも先進国では最高レベルの支出である。にもかかわらず、電線の地中化という重要な社会インフラがまったく未整備なのである。
日本は、無電柱化などの電気インフラが整っていないにもかかわらず、先進国の中では最高クラスの電気代を払っているのだ。
先進国と比較した場合、電気料金はかなり割高であることがわかる。
2020年の先進5ヵ国の比較データを見ると、ドイツが1番で、それに次いで日本が2番目の高さだ。
ドイツは、国の政策として、再生可能エネルギーの開発費を捻出するため、税金を電気料金に上乗せしている。その上乗せ分が、電気料金の約半分を占めるのだ。そのため、電力会社が受け取る純然たる「電気料金」を比較した場合、日本はドイツよりかなり高い。それだけでなく、フランス、イギリスなどの電気料金にも、再生可能エネルギー政策などのための税金が含まれたもので、原価だけを見れば、日本の電気料金は、先進国の中でずば抜けて高いのである。
日本は、先進国としての最低限の社会インフラである「電線の地中化」がまったく行われていないのである。
出典 文春/大村大次郎