慰安婦被害者後援金横領疑惑で裁判の渦中にある韓国の尹美香国会議員(現在、無所属比例代表)は、1月6日、結審公判で検察から「懲役5年」を求刑された。
尹美香事件に対する、証拠調査、尋問、審理などすべてが終わった。あとは、裁判長による刑の判決宣言だけであるが、30年間におよぶ慰安婦被害者人権運動の経歴を持つ、尹美香議員の法的処罰は避けることができなそうである。
事件の発端を、見直してみよう。2020年5月7日、慰安婦被害者のうち、もっとも旺盛に活動していた李容洙(イ・ヨンス)氏(94歳)の爆弾発言記者会見がその引き金だった。本当に誰も予想することができなかった、内部告発であった。
告発内容は、30余年間、アンタッチャブルな聖域であった慰安婦被害者団体にまつわる寄付金、義援金などをめぐるおカネの不正使用疑惑。慰安婦人権運動の経歴で比例代表国会議員になった尹美香前正義記憶連帯理事長に対する正面からの批判は、韓国社会に大きな衝撃を与えた。
しかも、尹美香議員が国会議員になってまだ20日あまりしかたっていなかった出来事だった。
正義記憶連帯側は、李容洙氏の暴露に対する解明立場文と公式記者会見を開いたが、むしろ寄付金私用に関する疑惑がさらに大きくなった。特に、1991年の挺身隊対策協時代から現在も継続している「水曜集会」での、30年以上にわたる後援金の用途先は、不透明極まりなかった。
以前の挺身隊対策協と正義記憶連帯が、2018年7月に統合されてから、リーダーの役割を果たしてきたのが尹美香議員だった。彼女は、李容洙氏の暴露から3ヵ月後、検察に、被疑者として召喚調査を受け、それから1ヵ月後、後援金横領疑惑で非拘束起訴された。
尹美香議員の嫌疑は8つで、業務上横領、詐欺、背任、準詐欺、補助金管理法違反、地方財政法違反、寄付金品法違反、公衆衛生管理法違反である。
現職議員であるためなのだろうか。裁判は、一進一退の攻防を繰り返し、尹美香議員が起訴されてから2年4ヵ月がたった。そして2023年1月6日、検察の結審公判がやっと終了した。
判決は2月10日に言い渡されるが、今後、控訴審、最高裁判所まで行ったら、裁判は、相当な時間がかかるだろう。尹美香議員の任期は、2024年4月に終わる。
このままいけば、尹美香議員は、4年任期の間、終始、慰安婦後援金横領疑惑で裁判を受けるという珍記録を立てることになるかもしれない。比例代表で国会に入城したことが、むしろ自分と慰安婦被害者団体に対して仇となったのではなかろうか。
慰安婦後援金の私用疑惑を暴露した李容洙氏は、国内外における政治的活動が目立つ人物だ。現実に政治にもかかわり、2012年には、現民主党の前身である民主統合党比例代表に出馬宣言したが、結局、公薦を受けることができなかったという過去がある。
実は、2012年の李容洙氏の比例代表国会議員出馬声明を引き止めて反対した人物が、まさに尹美香であった。あのとき、尹美香は、李容洙氏に、「国会議員にならなくても、(慰安婦問題を解決)できるのではないか。他の慰安婦被害者たちが、総選挙出馬を嫌がっている」と、言ったという(CBSノーカットニュース5月27日報道)。
李容洙氏の出馬を止めさせた尹美香は、8年後、比例代表国会議員になった。
李容洙氏の立場としては、自分の総選挙出馬を妨害した尹美香が議員になったことに対して、かなり複雑な心境だったのかもしれない。それゆえ、最初の記者会見で、「尹美香は、国会議員になってはいけない」と言ったのだろうか。
アイロニーか。結局、李容洙氏の内部告発によって、牽制と統制だけであった慰安婦被害者人権団体の実体が一気に水面に浮上し、明らかになったのである。
続く
出典 現代メディア つづき