成人を対象にカンザス州で調査したところ、ちょっとした知り合いになるには、50時間ほど一緒に過ごさなければいけないことがわかった。
90時間で友だちという認識になり、200時間以上で親密な友人になれる可能性がある。その過程を早めることはできなくとも、科学が力になれることはある。科学は即席のBFF、つまり「生涯の友(Best Friend Forever)」を提供することはできないが、友情が人生に与える影響や、いまある友情を維持する最善策、新しく出会った人と打ち解ける方法などを探ることはできる。
そして最終的に、現代においてもっとも軽視されている公衆衛生の問題のひとつ――「孤独」を防ぐことにもつながっていく。2018年の調査によると、イギリスでは約900万人が孤独を感じているという。孤独のサイクルから抜け出すのは容易ではない。友人がたくさんいても孤独を感じることはめずらしくない。
赤ん坊が乳房に吸いつくと、母親の脳下垂体からオキシトシンが分泌される。これにより、乳房の筋肉が収縮して母乳が出るようになるのだが、その際、不安感や血圧、心拍数なども低下する。
オキシトシンに関連して生まれる感情は、赤ん坊にお乳を吸うことを促し、母子のあいだの強い、愛情に満ちた絆を築く一助となる。これはすべての哺乳類に共通して見られる現象だが、人間をはじめ、仲間をつくる種族では、このシステムが拡大して使われている。
進化は、無駄な労力を省いて経済的に行われてきた。母子の絆以外にもかかわるようになったオキシトシンは、ハグや軽い触れ合い、マッサージなど、他者とのポジティブな身体的接触の際にも分泌されるようになったのだ。そしてその心地よさが報酬となり、触れた相手にまた会いたいと思わせる。友情の芽生えだ。
友情の原動力となる化学物質はそれだけではない。友人は、幸福感をもたらすエンドルフィンの分泌を誘発する。友だちと一緒に活動すると、ひとりのときより多くのエンドルフィンが分泌される。この感覚は非常に優れたもので、脳スキャンをしながら友人の写真を見ると、依存に関連する領域に活動を示す点滅が現れる。