昨秋に駐日スリランカ大使となった夫とともに日本で両国の橋渡する夫人・雅子さんは、浄土真宗本願寺派の寺の跡取り娘として育った。スリランカの外交官、E・ロドニ・M・ペレラさんと出会い、結婚。ニューヨーク、ケニア、イタリア、ノルウェー、ベルギー、アメリカなどに赴任し、外交官の伴侶として親善交流につとめてきた。
実家は群馬県桐生市にある重恩寺。2人姉妹の長女で、当時住職だった父は国際交流に熱心だった。スリランカのお坊さんをはじめ、各国の友人が訪れていた。
1990年に武蔵野女子大(現武蔵野大)を卒業し、父の紹介で在日スリランカ大使館に就職。そこで出会ったのが、当時は2等書記官だったロドニさんだ。外交官は機密保持などを理由に、同じ国の人と結婚するのが一般的だ。外交官を辞めて結婚するか、結婚を諦めるかという2択を迫られるなか、スリランカ外務省と2年がかりで交渉し、97年に結婚した。
スリランカは親日国。日本では、紅茶の産地とイメージされることが多いが、伝えたい魅力は多い。宝石が有名なこと、岩山「シギリヤロック」などの世界遺産が八つあること、インド・スリランカ発祥の伝統医学アーユルヴェーダを楽しめること――。のちに大統領になったJ.R.ジャヤワルダナ氏は、サンフランシスコ講和会議で、第2次世界大戦で敗戦した日本への賠償請求放棄を表明。「憎しみは憎しみによってやむことはなく、愛によってやむ」というブッダの言葉をひいたという。日本が国際社会に復帰する流れを作った経緯も知ってほしいと願う。
一方、長く日本を離れるうち、「何かが欠けている」と感じた。自分を見つめ直した結果、仏教であると気づき、通信教育で3年間浄土真宗の教えを学び、京都で得度をした。
雅子さんは、大使のサポートという多忙な日々を送りながら、ボランティアも続ける。今春には東京・八王子の保育園とオンラインで結び、園児への英会話レッスンも始めた。「いろいろな国の人と話せると、違いを学ぶことができる。違うから楽しい。バリアーが少ない幼いころから英語に親しんで欲しい」。世界に通用するエチケットやマナーのレッスンも計画する。
寺を継いでくれた妹夫婦に感謝しつつ、8月の桐生まつりではスリランカを紹介する予定だ。
出典 朝日新聞(6/5)