日本全国の家庭裁判所で少年犯罪の記録が廃棄されることが起き、しかも、2022年10月以降、神戸連続児童殺傷事件の記録も含めて廃棄されていたことが明らかになった。平成9年、神戸市須磨区で起きた児童連続殺傷事件で、当時14歳だった少年が、小学6年だった土師淳(はせじゅん・当時11)君ら殺傷してから、5月24日で26年を迎えるが、すべての事件記録が破棄となっていたのだ。
最高裁判所の規定では、犯人が26歳になるまで保存することにしているが、社会的影響の大きな事件の記録や史料的価値がある場合は永久に保存することとしていた。
神戸連続児童殺傷事件で次男を亡くした父親(医師)は、事件から全国犯罪被害者の会に参加し、中心のメンバーとなっている。
その後、医療少年院に収容、少年院を仮退院して以降、犯人からの謝罪の手紙を受け取っていた。だが犯人が2015年に『絶歌』と題する手記を遺族に知らせる事もなく出版された。出版は犯人は事件と向きあい更正しているのではと思い始めていた矢先のことであった。遺族への無断での出版に憤りを感じ、2016年以降は手紙を受け取っていなかった。2018年からは手紙が送られてこなくなる。被害者の父としては、犯人への矯正の教育は意味が無かったとするが、犯人はいつまでも事件に向き合う責任と義務があると考える。
この事件後、犯罪被害者基本法が成立して、刑事裁判に被害者が参加できる制度ができたり、被害者会への給付金が増えたり、日本全国に民間の犯罪被害者支援センターができた。
事件記録が廃棄された時期や経緯などは不明だということで、神戸家庭裁判所は「廃棄する際に実際にどのような検討がなされたのかは不明だが、現在の特別保存の運用からすると当時の対応は適切でなかったと思う」とコメントしています。
殺害されたうちの一人、土師淳くんの父親(66)は取材に応じ、「廃棄は考えてもいなかったので、驚いたとともにあきれました。加害者がなぜ事件を起こしたのかを推測できるような資料は今でも見たいと思っています。資料が保存されていても今の制度では閲覧できない事実は変わりませんが、廃棄には憤りを感じます」と話しました。
そのうえで、「資料をもとに専門家が検証することができなくなってしまったのは、社会的にも問題だと思います。司法は経緯をもう一度見直して、対応を改善してほしいです」と訴えました。
専門家「保管期間過ぎた事件記録を機械的に廃棄していたのでは」
裁判記録の取り扱いに詳しい、龍谷大学の福島至名誉教授は「これまでの少年事件の中で重大なものの1つであり、少年法の厳罰化や教育現場など社会に大きな影響を与えた事件でもあっただけに、重要な意義を持つ事件記録が失われてしまったことはとても残念だ。裁判所はおそらく保管期間が過ぎた事件記録について、機械的に廃棄していたのではないか」と指摘しています。
そのうえで、「25年前のような不幸な事件を二度と繰り返さないためにも、事件から何を教訓として学ぶかが、今の時代を生きる私たちにとって重要なことだ。そのためにも、記録は原則、保存するべきで、現在の管理や閲覧の在り方そのものを改めて議論していく必要がある」と話していました。
江川紹子さん「廃棄してしまう感覚に驚く」
神戸児童連続殺傷事件の記録が廃棄されていたことについて、裁判記録の取り扱いに詳しいジャーナリストの江川紹子さんは「この事件は少年法が厳罰化されるきっかけにもなった歴史的にも重要な事件であり、全国的に大きく報道されて、まさに社会の耳目を集めたものだ。その記録を廃棄してしまうという裁判所の感覚に驚く」と話します。
そして、「少年事件の記録なので今の制度上は利用や閲覧が難しいとしても、長い時間を経て司法の歴史や少年犯罪の研究などで活用されることも考えられる。さらに制度というものは変わる可能性があり、ご遺族などが閲覧を望んだとしたら、その可能性を奪ったことになる」と指摘しました。
そのうえで、「司法文書は公文書で国民共有の財産だという意識が司法に携わる人たちに欠けているのではないか。最高裁判所や国会は経緯や原因をきちんと調査し、改善に向けて何が必要か検証するべきだ」と話しています。
NHK2022年10月20日