統一地方選挙前半戦が終了した。過去ワーストだった4年前の無投票割合を上回って、大きな問題となっている。
総務省によると、道府県議選939選挙区のうち、約37.1%の348選挙区が無投票当選。後半戦の町村議選でも373選挙区のうち、約33%の123選挙区が定員割れで無投票となった。
こうしたことに危機感を持った政治アナリストの伊藤惇夫さんが、定年後のサラリーマンに向け「大志を抱け」ならぬ、「退志を抱け」と地方議員になることを勧めている。会社を定年退職した人たちにとって最も大切なのは「キョウヨウとキョウイク」とされる。ただし、教養と教育のことではない。暇を持て余すあまり、「今日、用事がある」「今日、行くところがある」ことが重要だという意味だ。伊藤さんは「これではもったいない気がする」と嘆き、「60歳から地方議員になってみる」(世界書院)という本を上梓している。
「若い人の政治参加が最も望まれますが、一方でサラリーマン生活を送った人たちの経験やスキルも捨てがたい。たとえ出世とは縁のないサラリーマン生活を送った人でも、得意分野や経験値を持っているはず。日本の総人口に占める65歳以上の割合は2021年時点で29.1%で、2050年には39.4%にまで上昇します。定年後の何十年を〈自分のためだけ〉に使っているのは、社会にとっても本人にとっても、ものすごくもったいないような気がするのです」
とくに「町村議会実態調査」によると、昨年7月時点の町村議員の平均年齢は65.2歳で、60歳以上が約77%を占めている。無投票の多い地方では60代や70代でもまだ働き盛り。「町村議のなり手不足で一度議員になるとなかなか辞められず、全体の年齢層が引き上がってしまう現象が起きています。新人が立候補できず、よって地方議会が行政を追認するだけの“儀式の場”となっているようにも見えます」(伊藤さん)
伊藤さんは著書で「選挙に受かりやすくなる」テクニックなども伝授するが、元サラリーマンの5人の現役議員へのインタビューも勉強になる。
神奈川県葉山町議の中村和雄さん(1942年生まれ)は元横浜市役所勤め。19年の選挙で同じ団地に住む元町議から「後継者として出ませんか」と勧められて出馬。4月の選挙で再選し現在は2期目を務めている。
サラリーマンから議員になることについて「それなりの地位についたり、実績を残した人がなるのはいいと思う。そういう人は人間性でも優れている」と後押し。
やはり今回の選挙で2期目の当選を果たした静岡県浜松市議の鈴木真人さん(1959年生まれ)はヤマハの元エンジニア。「皆がセンセイと呼ぶのに最初は違和感があった」と話しているが、「行政は前例踏襲主義が少なくないが、やはり変えるべきところは変えていくべき。そういう発想は、サラリーマン経験からくるんでしょうね」と、こちらも元サラリーマンの政治家を歓迎だ。
「もっとも、どの人も奥さまや同級生など核となる後援者がいます。当選するには一緒に選挙を戦ってくれる人が5人から10人は必要ですね。地方議会の会期日数は年間45日ですが、鈴木さんは『休みがない』と話していた。中には暇つぶしに名誉職で議員をやっているような人もいますが、改革に本気で意欲を燃やす議員は陳情や視察、議会質問の準備などで休みがなくなります。少し言い過ぎかもしれませんが、これまでの地方議員は『国にぶら下がっていれば、なんとかなる』的な発想でやってきましたが、口を開けていれば潤沢な税金を投入してくれた時代は終わっている。『古地図を見ながら東京の街を歩く』という趣味もいいですが、高齢化が進む日本では60歳以上がもっと活躍しないと、もったいないような気がしますね」(伊藤さん)
統一地方選は終わったが、残る40以上の市町村で議員選挙が控えている。高齢化、過疎化が進む市町村がほとんどだ。故郷に恩返ししたいという人は「議員になって汗を流す」ことも考えてみたい。
出典 日刊ゲンダイ(5/15)
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