ロシアによるウクライナ侵攻を受け、安倍晋三元首相や日本維新の会が日本の「核共有」の議論の必要性に言及し、長崎市の市民団体「長崎の証言の会」が抗議文を送るなどの動きが出ている。
核共有とはどんな考え方なのか、軍備管理・軍縮・不拡散が専門の西田充・長崎大多文化社会学部教授に聞いた。
――日本の非核三原則や安全保障への影響は。
◆NATOモデルの核共有の場合、日本固有の領土に米国の核兵器を配備することになるため、核を「持ち込ませず」に完全に反することになり、「非核二原則」に修正する必要がある。日本に米の核兵器を配備すれば、有事の際に敵国からの先制攻撃の対象になってしまうので、日本の安全保障にプラスになるのかはよく考えなければならない。
――日本で核共有の議論は必要か。
◆議論を封鎖してしまうと「なぜ核共有はだめなのか」と疑問が解消されないまま不満がたまってしまうので、適切な形で議論するのであれば議論したらいい。きちんと議論をしてしっかりとした結論を出すというプロセスを経ることができれば、より強固な結論が得られ、1、2世代くらいにわたって日本人全体に共有されるだろう。
――NATOで核共有が始まった歴史的背景は。
◆冷戦が始まった1950年代ごろ、欧州が大幅な軍縮を進める中、圧倒的な通常戦力を持ち勢力を広げる旧ソ連の大規模侵攻を抑止するため、米国が戦場単位での使用を想定した大量の戦術核を欧州に配備した。
その後、旧ソ連が最初に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発し、旧ソ連の欧州侵攻に米国が核兵器で対抗した場合も旧ソ連が米本土にICBMを撃ち込むことが可能になった。欧州に「ベルリンやパリを守るために米国がワシントンを犠牲にするのか」という疑念が生まれ、米国はそれを緩和するために欧州に配備した戦術核を、有事に同盟国から要請があれば同盟国が使えるようにした。それが核共有の先駆けだ。
――核共有とはどんな仕組みか。
◆(欧米30カ国が加盟する)北大西洋条約機構(NATO)が実施している。平時は「ホスト国」と呼ぶ▽ドイツ▽イタリア▽ベルギー▽トルコ▽オランダ――の5カ国に米軍の核兵器を配備し、米軍が管理する。平時は米軍が管理するため、(米露英仏中の5カ国以外への核不拡散を目的とした)核不拡散条約(NPT)には違反しないと解釈されている。
有事の際は、米国と非核保有国が政策協議をするNATO内の「核計画グループ」(NPG)が核兵器の使用を承認し、米大統領が許可すれば、米軍が核兵器をリリース(発射・投下)する。核兵器使用の責任とリスクの共有がNATOの核共有の肝だ。
「核シェアリング」と呼ばれることがあるが、米大統領の許可がなければ使えないので、私は「シェアリング」とも言えない「レンタル未満」と考えている。
――「核の傘」と違いは。
◆大きな差はない。核を巡るスタンスとしては@完全な非核(核兵器を持たないし、核の傘にも入らない)A独自に核兵器を持つB(自らは核兵器を保有しないが)核の傘に入る――の三つがある。核共有は、@とAの中間である核の傘に、若干プラスアルファをしたものだ。
出典:毎日新聞(4/16)