紅茶を飲むことで免疫力がアップすることが分かっています。鼻から上気道に入ってくるウイルスを防ぐことはできませんが、口内のウイルス減少に期待できます。新型コロナウイルスは、無症状感染が多いことが大きな特徴です。そこで、「自分がもし感染していたとしても、人には感染させない」という意識も大切で、紅茶が効果がありそうです。
今回の実験には、国立感染症研究所から分与していただいた新型コロナウイルスを使用しました。実験結果はイギリスの学術誌『Letters in Applied Microbiology』2022年1号に掲載され、世界中から大きな反響がありました。研究室で培養して実験を行っていたのですが、医療従事者の方を優先しなければならないため、防護服などを入手するのにもとても苦労しました。万が一にも研究者が感染することがないよう、最大限の注意を払いながら実験を行わねばならず、精神的にタフさを求められました。
新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスも、「エンベロープ」という膜を持っているウイルスです。紅茶ポリフェノールがインフルエンザウイルスの感染力を減少させる」という研究結果がすでにあったため、新型コロナウイルスにも効果が期待できるのではないかと予測し、2020年10月に大阪大学、大阪府立大学、三井農林の三者共同による、新型コロナウイルスに対する紅茶の抗ウイルス活性の研究をスタートさせました。
紅茶に含まれるポリフェノールが新型コロナの感染力を減少させる。先に結論からお話しすると、紅茶の効果についてわかったことは、大きく分けて2点あります。
1点目は、市販のティーバッグでいれた紅茶で新型コロナウイルスを処理すると、わずか10秒でウイルス感染力価(細胞に感染するウイルス数の指標)が減少すること。2点目は、通常の飲用濃度よりも低い濃度の紅茶でも新型コロナウイルス感染力価は減少するということです。
次に、どのような実験を行ったのかについて説明しましょう。
今回調べたのは、@それぞれ異なる茶ポリフェノールの水溶液20種、A粉末緑茶溶液、B粉末紅茶溶液、C紅茶のティーバッグ抽出液――の4種類の溶液です。それぞれを新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と一定時間作用させることで、抗ウイルス活性を調べました。
抗ウイルス効果が認められたのは、A粉末緑茶溶液(通常の飲用濃度の1/5)、B粉末紅茶溶液(同1/3)、C紅茶ティーバッグ抽出液(同1/2)の3つの溶液でした。いずれも、新型コロナウイルスの感染力価を減少させました。このことから、濃度の低い緑茶や紅茶でもウイルスの感染力価を減少させることがわかりました。
一方で、@20種類の「茶ポリフェノール溶液」では、新型コロナウイルスの感染力価はあまり低下しませんでした。正直、この結果は我々にとって予想外でした。20種類のポリフェノールの中で1番強い抗ウイルス活性を示すものを見つけようと考えていたからです。
@以外の溶液でウイルス感染力価が減少した理由としては、それぞれ@のポリフェノール単体よりも、A、B、Cのように複数のポリフェノールが存在することで、より強い効果を発揮したためと考えられます。漢方薬と同じ考え方で、精製品よりも天然のままの方が高い効能を示すことを再認識させられました。
次に、A、B、Cを新型コロナウイルスと作用させる時間を変えて評価しました。溶液の温度は、いずれも25℃としました。
粉末紅茶溶液と紅茶ティーバッグ抽出液では、共にわずか10秒しかかかりませんでした。それに対して、粉末緑茶溶液では、新型コロナウイルスの感染力価を減少させる、つまり、感染力を持つウイルスの数を10万分の1まで減少させるのに10分間必要でした。
これが「わずか10秒ほどで新型コロナウイルスを不活化する」という根拠です。
もちろん、感染症対策としては免疫力を高めることも重要です。
紅茶を継続的に飲むことで、ウイルスに侵された細胞を攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が高まり、唾液中の分泌型の抗体(SlgA)濃度が増加する、つまり免疫力が高まるという研究結果があります。20歳〜60歳の72人を対象とした臨床試験では、1日3杯の紅茶を12週間継続して飲み続けたところ、風邪をひきにくくなり、ひいても重症化しにくくなったとの報告もあります。
他方、ウイルスと細菌の違いをわかっている人は少ないのではないでしょうか。
細菌は自己複製能力を有しますが、ウイルスは生物ではないので、人間や動物の細胞内のみでしか増殖できません。
新型コロナウイルスもウイルスですので、人間の体内、細胞の中に入らない限り増殖できません。
つまり、唾液中のウイルスを不活化する、あるいは体内に入れないようにすることが、最大の感染防止策になるのです。
「紅茶」を飲むことで、新型コロナウイルス感染者の口腔内でウイルスが減少すれば、飛沫による人から人への感染リスクを低下させることが期待できます。家庭で飲むのはもちろん、飲食店で食事をする際に紅茶を飲むようにすると、感染リスクを低減させることができるでしょう。
「紅茶を飲むと、ポリフェノールが口腔内で10分程度は残る」という研究結果があります。
ですので、一度にたくさんの量を飲むのではなく、少しずつでもいいので飲む頻度を上げる「ちょこちょこ飲み」が感染対策としてはより有効といえるでしょう。
また、紅茶にはカフェインが含まれていますが、カフェインレスの紅茶でも、効果は変わらないことが確認されています。カフェインが苦手な人や妊産婦さん、小さいお子さんは、カフェインレスの紅茶を選ぶといいでしょう。
今分かっていることは、「夾雑物(異物)がほとんどない条件下で紅茶がウイルスの感染力を低下させる」までです。次のステップとして、唾液中でも同様に紅茶がコロナウイルスの感染力を低減するのか、新型コロナウイルスに感染した人の唾液中でも、紅茶がウイルスの感染力を低減するのかを確認していく必要があります。実際に新型コロナウイルスに感染した人、発症した人などに紅茶を飲んでいただき、唾液中のウイルスがどれだけ減少するかという実証実験を検討しています。
海外の研究者との共同実験も視野に入れています。
ワクチン、マスク、手洗い、換気などの基本的な対策をしっかり行いながら、紅茶を自分でできる手軽で安価な、プラスアルファの対策として取り入れてほしいと思っています。
参照HP