米国のニューヨークなど主要都市で、今週の公式統計から新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」による感染の波が収束し始めていることが明らかになった。ニューヨークでは、1日の新規感染者数の7日間平均が過去最多の4万人を記録した2日以降、減少を続けている。オミクロン株の感染者が爆発的に増加した後に急減するという傾向は、英国や南アフリカでもみられていた。
ニューヨーク州全体とニュージャージー州、シカゴ、首都ワシントンでも同様の減少が見られた。だが新規感染は大半の州で増えており、全米平均は1日75万人を超えて増加を続けている。
一方、感染者数の変動から一歩遅れて変化する入院患者数は、過去最多を更新した。オミクロン株の症状は従来株に比べて軽いことが多いが、感染力が強いため、全体比では少ない重症化患者も絶対数では多くなり、医療体制を逼迫。米厚生省によると、国内の病院では現在、過去最多となる15万7000床以上が新型ウイルス感染者で占められている。
さらに全米各地では、看護師が人手や設備の不足、新型ウイルス陽性になっても勤務を強いられていることを理由にストライキや抗議を展開している。1日の死亡者数の7日間平均は1700人を超え、デルタ株感染がピークを迎えていた昨年9月の約1900人に近づいている。
【翻訳編集】 AFPBB News(1/15)
米ワシントン大学・モクダッド教授のシミュレーションによりますと、今月19日に120万人の感染を記録し、その後は、急激に減少するということです。教授は「3月か4月には、世界の各地、特に欧米で感染者が減少する見込み。しばらくは“日常”が戻るでしょう」
新規感染者が20万人を超えたイギリスでも、ここ数日、減少傾向にあります。一部の地域には、引き続き警戒を求めていますが、重症患者数も、去年1月と比べると、2割前後で推移しています。NHS=国民保険サービスの最高責任者のマシュー・テイラー氏は「想定外のことが起きない限り、入院患者数は、全国的にまもなくピークに達する」と述べている。
しかし、気を付けなくてはいけないのは、まだ終わった話ではないということで、多数の人を感染させるオミクロン株拡大による重症者数が増加に対して、医療従事者サイドの対応が追い付かなくなることも考えられるので、移っても移してもならない現状には変わらないとの訴えがWebでもされている。
オミクロン株の感染力について、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師は、こう話す。
「最初に発見された南アフリカでは、デルタ株がピークをすぎた後で、二つの感染力をガチンコ勝負でくらべることができませんでした。しかし、イギリスやデンマークでは、デルタ株がはやっているところにオミクロン株が現れ、どんどん増加しているので、感染力はデルタ株よりも明らかに強いと見ています」
また、埼玉医科大学の松井政則准教授も、
「世界的にデルタ株をしのいで広がっており、世界の感染状況を見ると、デルタ株より感染性が高い。日本でもすでに市中感染が起きているので、いずれ国内でもデルタ株を凌駕して、第6波が起きるでしょう」と指摘する。
では、なにゆえに感染力が高くなったのか。その仕組みを、東京農工大学農学部附属感染症未来疫学センター長の水谷哲也教授は「オミクロン株は、ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に足がかりになるスパイクタンパク質の変異が、約30カ所もあります。従来株の数カ所から10カ所程度にくらべて格段に多く、この変異によってウイルスがヒトの細胞のレセプター(受容体)と結合しやすくなったと考えられています。通常は感染力が高まった分、体内に侵入するウイルス量も増え、重症化リスクも増すはずなのですが、オミクロン株は不思議なことに、重症化や死亡リスクはデルタ株より低いとみられます。考えられる理由の一つが、約30カ所と変異が起こりすぎたため、ウイルスのもつ特性が打ち消されてしまった可能性です。スパイクタンパク質に変異が生じすぎると、全体のバランスをとろうとするかのように、ウイルスのある特性が抑え込まれるケースがあります。オミクロン株の場合、抑え込まれた特性のなかに“致死性”や“猛毒性”が含まれていた可能性までは、排除できません」解説する。
すでに感染拡大している各国で、どうなっているのか。東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授が説明する。
「南アフリカの報告では救急外来を受診した人のうち、入院した割合がデルタ株や従来株では60〜70%だったのが、オミクロン株では41.3%と、3分の2ほどに減っています。また、酸素治療を行うほど重症化した人は5分の1で、人工呼吸器を装着した人と死亡した人は、5分の1から10分の1だったといいます。ただし平均年齢が、デルタや従来株についての報告では59歳だったのに対し、オミクロン株では36歳と、感染者が若いことも考慮する必要があります。ほかに南アの報告では、入院率が約10%から約2%に下がったというものもあります。またイギリスでは、1日以上入院した人が60%減になった、という報告があります。ただし、いずれもデルタと従来株の患者の年齢が、平均して50代くらいなのに対し、オミクロン株では30代後半です」
東京大学名誉教授で、食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が言う。
「南アではあっという間にピークアウトし、死者の増加がなかったと南ア政府が発表し、それを研究者たちも認めています。オミクロン株の実態はインフルエンザに近いといえるでしょう。北海道大学と東京大学の実験でも、細胞毒性が非常に弱いことが明らかになっています。ヨーロッパも、南アと同じコースをたどることが容易に予想されます」
そして、こう続ける。
「オミクロン株が世界中に広がり、デルタ株を駆逐してくれたほうが、人類にとってありがたいことだと思う。オミクロン株に置き換わったほうがトータルで死者は減るかもしれないという意味では、コロナ禍の救世主といえるでしょう」
「週刊新潮」2022年1月13日号 掲載
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