暦本純一(東京大学大学院教授)『妄想する頭 思考する手』祥伝社
グーグルには、かつて「20パーセントルール」と呼ばれる制度があった。「従業員は、勤務時間の20パーセントを自分自身のやりたいプロジェクトに費やさなければならない」というルールだ。今はそれが許可制になるなどトーンダウンしているようだが、以前はそれがグーグルの「イノベーションの源泉」とも言われた。
本当にイノベーションを起こしたいなら、「こうあらねばならない」的な真面目路線のほかに、「非真面目」な路線を確保することが必要だと私は思う。つまり、役に立つかどうかよくわからないアイデアでも、とりあえずやってみる妄想に寛容さだ。誰もが正しいと認める課題を設定して、その解決策を真面目に追及することを否定はしない。そういう行動ができる人間も、間違いなく社会に必要だ。
しかし、そうやって与えられた問題の正解を模索するだけでは、真面目一辺倒の社会になってしまう。それによって社会全体に悲壮感のようなものが漂っているのが、今の日本ではないだろうか。自分のやりたいことを思い浮かべて、楽しそうに何かを考えている人が大切にされる社会こそが、イノベーションを生むはずだ。
イノベーションにつながる妄想は、世界中のいろいろなところで多くの人たちが抱いている。ノーベル賞をとった研究者や発明家の多くも、たまたまある種の偶然がマグマの噴き出し口としてその人を選んだだけだと考えることもできる。だから、「選択と集中」でその噴き出し口を狙い撃ちするのはきわめて難しい。多様な妄想を許容して広げておき、マグマが噴出する可能性を高めておくのが、イノベーションを起こすための正しい道だろう。