2020年の秋、欧州各国でコロナ感染者数が再び急増し、フランスでは厳しいロックダウン措置が取られ、イタリアではロックダウンに反対する激しいデモが起きるなど政府と市民の間の軋轢も増しつつある。今夏、デルタ型は感染力が強いが、英国やスペインやフランスなど、ドイツの何倍も感染者が多く、ドイツの何分の1しか病床がない国でもワクチン接種が進んでいることもあって、重症者の増加を防いでいる。重症化しにくいから、医療崩壊は起こっていない。スペイン、英国、スウェーデン、スイスなど多くの国では、すでに規制は外され、国民生活はコロナ以前の状況に戻っている。近隣諸国と違うのは、ドイツ人はやはり欧州の中では真面目だということだろう。規則がなければ自由だが、規則があればそれを順守しようとする。
しかし、感染者の数がそれらの国々よりずっと低いドイツだけが、「ジャーマン・アングスト」に囚われたままだ。8月25日、9月末に終了するはずだったドイツ保健大臣の特権が、「まだ感染は全国規模で広がっている」として、さらに3ヵ月、つまり年末まで延長された。これに関してはさすがに国会でも意見が分かれ、賛成が325、反対が253、棄権が5。野党はすでに採決前に反対を表明していたが、しかし、与党CDU、CSU、SPDの団結には敵わなかった。国民はというと、やはり意見が真二つに分かれているが、政府の指導に粛々と従う人たちの方が、数としては圧倒的に多い。
ドイツは今、不思議な空気に包まれている。政府はワクチン接種を受けない人への圧力を急速に強めつつあるし、学校で普通に授業をすればウイルスの温床になるというホラー映画を思わせるような怖い予測がメディアで流れる。
常任ワクチン接種委員会は、政府のワクチン接種についての施策を監督するための独立機関とされているが、同委員会は長らく、12歳以上18歳未満の青少年へのワクチン接種を、データ不足という理由で承認しなかった。ところが最近になって、政府の圧力に屈した形でそれも承認。そのため、これから学校では、ワクチン接種をしていない子供が、いわゆる差別待遇を受ける可能性も取り沙汰されている。学校での集団接種を考えている州もあるという。
現在、ドイツで注目を浴びているのが、3Gとか2Gという言葉だ。「Geimpft(ワクチン接種済み)」「Genesen(コロナ快癒)」「Getestet(コロナ検査済み)」の3つのG。このどれにも当てはまらなければ、自由な市民生活は送れない。これは人権の剥奪であり、違憲であるという意見は法律学者から多く出ているが、政府は、3つ目のGetestet(コロナ検査済み)がある限り、何人(なんびと)も検査をすれば同じ権利を享受できるので、人権の侵害にはならないと主張する。
Getestet(コロナ検査済み)というのは、毎回検査が必要になる。ジムに行ったり、レストランに行くたびに、事前に検査をするというのは現実的ではない。しかも、10月12日より、検査費用は自費負担となる。その上、今、政府内には、この規制を公共交通機関にも適用すべきだという意見さえある。それでも保健大臣曰く、「ワクチン接種は強制ではない」。 さらに政府内で議論になっているのが、雇用者が求職者や従業員に3Gステータスを尋ねたり、それを雇用条件に組み込んだりすることが許されるかどうかということ。本来なら、雇用者が求職者や従業員に健康状態や既往症を尋ねることは違法である。
彼らは自分の権利を保つためにワクチンを打つ。そして、ワクチン接種は、自分が罹らないというだけでなく、他人にうつさないという意味もあるので、これは、共同体の公衆衛生のための国民の義務であるという解釈だ。だからこそワクチンパスポートに賛成の人が圧倒的に多い。それと同時に、ワクチンを拒絶する人は利己的で、反社会的という極論が定着しつつある。
ただ、Geimpft(ワクチン接種済み)というのはオールマイティのように聞こえるが、ドイツでは現在、このステータスはワクチン接種後、180日有効と決められている。つまり、半年後にまた打たなくては、社会生活から閉め出されることになる。現に、ドイツでは今、3度目の接種が始まったところだ。
出典:現代ビジネス(9/3)