東北大学加齢医学研究所では子供の学習意欲を伸ばすにはどうすればいいのかを脳科学の視点で調査するようになりました。仙台市教育委員会と共同で毎年、仙台市立小・中・高校生約7万人を対象に、「仙台市標準学力検査」と「仙台市生活・学習状況調査」を実施しています。
「仙台市生活・学習状況調査」は、好きな授業に関する質問や学習意欲についてなどのアンケートです。「仙台市標準学力検査」は、基礎知識と応用力を調べるテスト(中一は国語、数学、理科、社会の4教科。中2、中3は英語を加えた5教科)。教育委員会はゲームやテレビが子供の学習意欲を削いでいるのではないかと考えていましたが、最近はゲームをするのも、動画を見るのもすべてスマホでできてしまう。児童・生徒が普段どれくらいスマホ、タブレットを使っているのか、またそれによってどんな影響があるか調べてみようということになりました。
「ふだん、1日当たりどれくらいの時間、携帯電話(スマートフォンも含む)でメールやネットゲームをしたり、ネットを見たりしていますか」などの質問があり、この2つの調査を元に解析したのですが、恐ろしい事実がわかりました。それは、「1日1時間以上スマホを使うと子供の学力が下がる」ということです。
スマホ(タブレットも含む)使用が1時間以内であれば平均点は上がるのですが、1時間を超えると下がり始めます。使用が1時間増えるごとに、平均で国語2・3点、数学4・6点、理科3・8点、社会3・8点下がるのです。、複数のアプリを切り替えながら、つまりマルチタスキングをしながら勉強している場合は成績が大きく下がることです。
スマホと学力の因果関係ははっきりしているわけですが、なぜスマホを使用すると学力が下がるのか、明確な理由はまだ解明できていません。
動物実験をして、遺伝子発現やタンパク質の組成の変化などを見るなどが必要なのですが、実験動物はスマホを使うことができない。
今後は現象論として、継続して調査を積み重ねていくしかないと考えています。
学力を下げる要因として、2つの可能性が考えられました。1つめは、スマホ使用による睡眠不足。2つめは、家庭学習の時間がスマホによって奪われている可能性です。
しかし、どちらも違っていました。
細胞のなかにはミトコンドリアというエネルギーを生産する細胞内構造物があり、睡眠不足になると、ミトコンドリアの機能が低下することが医学的にわかっています。ために、脳が細胞レベルでエネルギーをうまく作れなくなる。
そこで私たちは、子供を睡眠時間が6時間の群、6〜8時間の群、それ以上寝ている群の3つに分けてスマホの使用時間を調べてみました。結果、きちんと寝ている子であっても、スマホを使用したら使用した分だけ平均点が下がっていたのです。
やはりスマホの使用が長くなればなるほど成績が下がっていたのです。
ことに数学は下がり方が顕著で、自宅で2時間以上勉強する群であっても、使用時間が1時間増えていくごとに平均点が約5点下がっていきます。1時間程度勉強する群のなかで、スマホを使わない子と3時間使用する子に分けてみると、前者の平均点は72点、後者は61点。
スマホをまったく使わない子、3時間使用する子の数学の平均点は前者63点、後者54点。
家で勉強しない子は学校の授業でしか記憶が作られませんから、スマホを長時間使用することで、学校で学んだことが頭から消えてしまったのがわかります。無為に時間を過ごすよりも、スマホを使っている時間のほうが悪影響があるということです。
睡眠を十分とっていようがいまいが、自宅で勉強しようがしまいが、スマホを1時間以上使ったら使った分だけ学力に影響があるのです。
スマホをいじると、前頭前野の血流量が下がることがわかっています。前頭前野は記憶する、学習する、行動を抑制する、物事を予測する、コミュニケーションを円滑にするなど、人間ならではの働きを司っている部分。そこの働きが抑制されるわけです。
これはテレビを見たり、ゲームをしたりしている時、あるいはマッサージを受けている時にも同じ状態になります。つまり、一種のリラックス状態になる。この弛緩した状態が長時間続くことで、脳に何らかの影響を及ぼすのではと推測されます。
参考HP:https://hanada-plus.jp/articles/228つづき