法政大学大学院教授、石山恒貴・編著『地域とゆるくつながろう!』の内容が目に留まりましたので、ご紹介:
サードプレイスとは、オルディンバーグが提唱した考え方です。その考え方とは、家庭(第1の場)でも職場(第2の場)でもない第3の場所に注目しよう、ということです。地域といえば町内会、自治会といった旧来型組織のイメージがあり、そこでは加盟が半強制されており、役員は輪番、抽選などで半強制的に割り当てられるケースが多い。願っていない「きついつ縛り」が人々をかえって遠ざけている実態の実際があります。
そこで「地域とゆるくつながろう」というのは、これからの地域参加、地域との関わり方を考えるうえでとても有益です。しかもそれぞれが実践をとおしたものだけに説得力に富む。
サードプレイスには、中立性、社会的平等性の担保、会話が中心に存在すること、利便性があること、常連の存在、目立たないこと、遊び心があること、もうひとつのわが家、という8つの特徴があるとされています。つまり、サードプレイスとは、人々が気軽に集まり交流できる、憩いのある楽しい場なのです。ただ、同時に多様で異質な人々が、自分の社会的立場を気にせず、交流できる場でもあります。
実は、このような特徴があるからこそ、サードプレイスは地域の中でゆるくつながる場として適しているわけです。片岡亜紀子さんは、サードプレイスを3種類に区分しています。
第1の型は、マイプレイス型ですが、スターバックスやドトールのようなカフェなどで、個人が時間を気にせず、ゆったりと過ごす場です。このような個人の憩いの場は、とりわけ都市の生活で疲弊しているときには貴重なものでしょう。
第2の型は、社交交流型です。これは、まさにオルディンバーグの指摘したサードプレイスそのものであり、地元の居酒屋など、なじみの常連が社交の場として、賑やかに楽しむ場です。
第3の型は、目的交流型です。目的交流型とは、地域のNPO、こども食堂、コミュニティカフェなど、何らかの地域活動としての目的が存在し、自発的に人々が集まる場を意味します。これは、オルディンバーグの指摘した社交が中心のサードプレイスをさらに発展させた、進化形のサードプレイスではないでしょうか。目的交流型は、地域で何らかの目的を達成したいという情熱を持った人が集まります。自発的であるため、もちろん楽しさもあるでしょうが、そこには、地域の何かを変えたい、良くしたいという目的があるのです。
目的交流型は、義務的共同体(地縁コミュニティ)とは区分されます。たとえば、自治会や消防団のような地縁コミュニティは地域が機能していくには欠かせない重要な存在です。しかし、地縁コミュニティでは参加が必須であることが多いため、地域との関わり方がそれだけだと、少し息苦しいのではないでしょうか。地縁コミュニティにおける人間関係は濃密なものとなりやすいため、もう少し気軽な場が選択肢にあると人生がより豊かになると思えます。
そこで、目的交流型(地域のサードプレイス)が新しい選択肢になるわけです。地域のサードプレイスにおいて設定される目的は、地縁コミュニティと同様に地域にとって重要です。しかし同時に、地域のサードプレイスは自発的に参加するものであって、出入り自由なのです。このような気軽さが、地域とゆるくつながるためのポイントになってくるわけです。
なお、「自発的」「義務的」とは個人の認知の問題です。もしPTAや消防団を主体にやりたいと考えて参加するなら、その場合は目的交流型になると考えていいでしょう。地域のサードプレイスと同様に、ゆるくつながる考え方として、最近注目を集めている考え方が関係人口です。
今までは、地域と人の関わりとして、定住人口、交流人口という用語が注目されてきました。地域については、人口減少による危機が叫ばれていますから、定住人口が注目されるのは当然のことでしょう。次に交流人口ですが、すぐに思い浮かぶことは観光です。
特徴あるイベントや、地域の特産品づくり、コト消費などをうまく絡ませると、一気に観光客増につながり、地域おこしの切り札になることも多いのです。昨今、総務省の研究会報告書では、定住人口、交流人口の他に「関係人口」という考え方が提唱されました。
関係人口は「長期的な『定住人口』でも短期的な『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」と定義されています。そして具体的な関係人口の種類としては、「『近居の者』『何らかの関わりがある者』『風の人』」が例示されています。「風の人」とは、ローカルジャーナリストの田中輝美氏が提唱した言葉であるそうです。
田中氏は関係人口の関わり方の具体例として、「特産品購入」「寄付(ふるさと納税など)」「頻繁な訪問」「ボランティア活動」「二地域移住」を挙げています。「風の人」とは、ここで示された多様な関わり方を自由に選択し、定住・移住でもなく、交流・観光でもなく、地域の仲間として貢献したいという気持ちに沿って行動している人を指すようです。
「風の人」という表現がわかりやすいのは、複数の地域に同時に関わることも肯定されるイメージがあるからではないでしょうか。従来は、複数の地域に同時に関わることには否定的なイメージがあったかもしれません。「全身全霊をあげて、ひとつの地域に尽くすのでなければ、意味はない。そうでなければ、いい加減だ」という批判です。
しかし「風の人」として、複数の地域のファンになり、複数の地域に貢献しても、本来、何ら問題はないはずです。
これは、社員の兼業・副業を嫌い、1つの企業だけに忠誠を尽くすべきとする論理と似ています。
また、「風の人」にとっては定住・移住が最終ゴールではない、というイメージもわかりやすく伝わります。
多様な選択肢があってもいいけれど、やはり最終的には必ず定住・移住してほしい、となれば、真の意味で選択肢が増えたとはいえないでしょう。定住・移住をゴールとせず、「風の人」としてさまざまな地域を漂い、それぞれに貢献していく。
それでも意味があるんだよ、と肯定されれば、安心して、ゆるく地域とつながることができそうです。
石山恒貴氏は、地域とのつながり方で自分のキャリアを起点にする場合に、お勧めしたい考え方がパラレルキャリアだと言う。
『チャールズ・ハンディが提唱した人生の4つのワークがあります。
ワークとは、職業に限定されるものではなく、人生の役割にあたるものです。ハンディは、長寿化が進み、複雑さが増す現代社会においては、1つのワークに全身全霊を注ぐ生き方だけではなく、複数のワークを同時に行う生き方もあるのではないか、と考えました。そして、そのような生き方が選択できるようになれば、個人の人生がより豊かになると考えました。
筆者は、この4つのワークを同時に複数行うことが、パラレルキャリアであると考えています。
4つのワークとは、「有給ワーク」「家庭ワーク」「ギフトワーク」「学習ワーク」であるとしています。
報酬を得る仕事である「有給ワーク」、家庭を営む「家庭ワーク」、社会に貢献する「ギフトワーク」、若い時代の教育だけではなく、生涯の学びを意味する「学習ワーク」を「ギフト・地域ワーク」、「学習ワーク」を「学習・趣味ワーク」へと、少し名前を修正したいと思います。
パラレルキャリアには、「ギフト・地域ワーク」としての地域への関わりが含まれることがわかります。「ギフト・地域ワーク」には「有給ワーク」との重なりがありますから、報酬がある場合もない場合も、両方該当します。また、「ギフト・地域ワーク」には「学習・趣味ワーク」との重なりがありますから、学びの要素も存在します。』
昨今は、自治会や観光協会、法人会といった古くからある既存の組織以外に、多くのボランティアの会が続々と生まれてくる時代です。コロナ禍により、国やまちの観光に関する計画も完全に狂ってしまました。「まちおこし」や「地域おこし」といった官製ではない、まちの有志がつくった「学習・趣味ワーク」の会、「ギフト・地域ワーク」の会があっていい。
いわゆるインバウンドで観光客を集めるという、従来型の「交流人口」を増加させるという施策。だからこそ、今、最も注目されているのが「関係人口」を増やすこと。コロナ禍とDXにより、働き方の変化も加速します。終身雇用ができなくなった今、会社との関係も「ゆるいつながり」が増えてくるでしょう。一社ではなく、何社かで働くパラレルワーク、それは何社か(別の組織)の違った視点や発想を持つことにつながります。これからは、既存の自治会も観光協会も大きく変わっていきます。地域の「風の人」や「ギフト・地域ワーク」 との連携が欠かせない、いつの日か、旧来の既存組織より、こちらの方が主体になる日も近いかもしれません。
ポリシーのない街づくりによって、どこにでもある同じ顔つきの街が各地で誕生しているのだ。東京追随化している。失われた景観は、二度と元には戻らない。帰って、田舎で「何もない」と言う街ほど、多くの財産が眠っている。その魅力に気づくことこそが、地域を守り、街を守り、100年続く街づくりにつながるのだと実感している。その地域ならではの魅力に着目し、人々が自然と集まるような街づくりの拠点を「サードプレイス」と定義し、地方創生の起爆剤になる.。サードプレイスには、地元の人々をはじめ、人と人とがふれあえる環境がある。そのベースとなっているのはやはり、地域の文化であり、歴史であり、時代とともに培われてきた風土や慣習、さらにはそこに住む人の魅力だ。サードプレイスを通じて、人も、街も、地域も、もっともっと輝いていける。