タイは医療ツーリズムの発祥の地とも言われており、2004年にタイ政府は「タイをアジアの医療拠点として開発する」という5ヵ年計画を策定し、医療ツーリズムを国家政策とするべく計画を打ち出している。
東南アジアでは、人口やGDPなどが拡大していることに加え、国民所得も上昇しており、先進国と同水準の医療を求めるニーズが高まっている。中でも、医療水準に関してタイは東南アジアで最も発展している国のひとつとなっている。
タイ国家戦略として (1)高度な医療サービス、 (2)スパや古式マッサージなどホスピタリティ溢れるヘルスケアサービス、 (3)タイのハーブ製品の3つの主要領域を推進するものであり、主として民間病院が提供する高水準医療の提供と魅力的な観光資源を組み合わ計画になっている。

タイの人口は6,800万人ほどで、およそ32%が24歳以下である比較的若い国である。他方、2000年頃から65歳以上の人口比率が増加しており、日本を始めとする先進国と同様に高齢化が進み始め、2050年には人口の30%が65歳以上になると予測されている。社会水準があがり、がん治療も求められるようになってきている。公的医療保障を提供する形が整った。経済規模や背景にある貧富の差を勘案すると、保健指標としても、優秀な国である。平均寿命、医療費等から算出される指標によってあらわされる医療制度の効率性は、日本は7位(2015年)、タイは34位とドイツやトルコ、オーストリアと同水準であることが報告されている。
タイ医療の父「プリンス・マヒドン」は、現国王ラーマ10世の祖父にあたる。病人の存在に心を痛め、ハーバード大学で医学を学び、のちに同大学で公衆衛生の博士を取得し、小児科医を志しつつも若くして亡くなった。タイの医療の発展に大きく寄与され、タイで一番の医学部とされる国立のマヒドン大学も「プリンス・マヒドン」の名前が由来である。
「プリンス・マヒドン」の貢献もあって、タイにおいては公的な保健医療に対する関心が高い。タイでは私的医療(日本でいう自由診療)は約20%を占め、公的医療が約80%を占めている。世界保健機関などが、途上国では行うべきとされるような施策は率先して行いつつ、地域でのプライマリーケアや公衆衛生活動などが国を挙げて熱心に取り組まれている。
一般的に、私的医療の割合が25%を超えるようになると、優秀な医療従事者や軽症患者を吸い上げることになり、また制度の格差も大きくなり不満足感も冗長するため、制度崩壊の危険がある。貧富の差も大きく、自由市場を享受している社会背景にあるタイにおいて、公的医療の占める割合を80%で曲がりなりにも維持し、特に地方におけるプライマリーの医療施設の質を保ち、制度を維持している背景には、公衆衛生のマインドを持った医師たちの活躍があるのである。
日本ではなかなか導入が進まない、医療技術評価や医療データの分析なども熱心である。
この公衆衛生マインドの情熱が最もうかがえるのは、地域の保健センターである。保健センターでは、風邪のような一般的な疾病への対応に加え、母子保健の健診やワクチンなどが提供される。民生委員のような形で、地域の医療ボランティアが形成されており、こういった人々も地域で熱心に、健康活動に取り組んでいる。踊りやたばこ対策など、生活習慣病対策も熱心である。