ふるさと納税は、約10年前、地方税法の改正で創設された制度。出身地などの自治体に寄付すると、2千円を超える部分について、所得税と住民税から控除される制度である。(一定の上限あり)
例えば、大阪府泉佐野市は、返礼品はウナギ、ビールなどで地元の特産品ではないふるさと納税用の返礼品を納税サイトに並べ、135億円の寄付額を得て、驚愕されたことがあった。制度本来のネライは「生まれ育ったふるさとに貢献できる制度」「自分の意思で応援したい自治体を選ぶことができる制度」であったが、ネットで簡単に控除申請ができるようになり、ついには選ぶ自治体を高額な「返礼品」で割安な品を探し出して利用する人々が増え、また中には返礼品をインターネットで売買、節税の目的で高額寄付をする者も出てきているなど、応援寄附金という本来の趣旨を逸脱、結果、居住地の市民税が何億も減少している状況が我孫子市ですらエスカレートしており、本年は既に3億程も減少している事情だ。
我孫子市は、市制50周年を記念し名誉市民の称号を青木功(世界タイトルをもつプロゴルファー。77歳)さんに贈ることを3月に決定していた。コロナ禍で記念式典も延期だったが、5月末に青木功さんから不織布マスク1万枚の寄贈を受けたと発表がされた。青木さんは寄贈に当たり「私が生まれ育った我孫子市の新型コロナウイルス感染症対策に少しでも力になりたいと思い、マスクを寄贈することにしました。学校や医療、市役所など感染症対策の現場で従事する皆様のために少しでもお役に立てればうれしいです」とのメッセージを寄せた。
文化人の寄付をたどると、平成14年に児童文学作家、古登(こと)正子さん(故人)の私財1200万円寄付がきっかけだった。しかし、市教委が担当するめるへん文庫事業は、印刷費用などで1年で約100万円が必要とされ、24年には資金が底をついた。市は「市民の好意で始まり引き継いできた文学賞なので、その気持ちを大切につないでいきたいと約50万円を拠出。生前の古登さんも古登さんの寄付を上積みしてくれて、危機を乗り越えた。さらに古登さんは「遺産を運営に」と希望。没後には計4670万円が寄贈され、こうして存続の資金不足の危機も乗り越え、文化が薫る我孫子発の文芸コンクールとして浸透している。
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我孫子市は大正時代に志賀直哉や武者小路実篤らの白樺派文人が暮らした文学の街。めるへん文庫はこの伝統を受け継ぎ、次世代の創作者を育てようと創設された。古登さんは市内に暮らして童話活動に取り組み、2015年に亡くなった。
メジャーな文学賞の登竜門的な位置づけでは決してない。市は「子供たちがいろいろなことに挑戦するために、創作で想像する場面を提供したい」と、私財を投じた古登さんの思いを引き継ぎ、子供の成長をサポートする舞台であると強調する。
第1回から審査員を務める児童文学者の横山悦子さんも「書くことで自分の心を見つめ、生きる力が育まれる」と指摘。その上で、「子供たちにそうした機会を提供する文学賞は我孫子の宝であり、浸透してきたことで古登さんも喜んでくれているはず」と話す。
しかし「古登さんの遺志をつなぐには、これだけに頼るのではだめだ」と、市と市教委は市民や文学を支える人たちに協力を求めている。
市役所への募金箱設置もそのひとつ。
市のマスコットキャラクター「手賀沼のうなきちさん」は、白樺派文学のファンという設定で、手賀沼湖畔での読書が大好きとされる。今春からPRに参戦し、うなきちの着ぐるみで職員が市役所1階で募金を呼びかける。市は「好意から始まった事業なので、めるへん文庫のPRや振興は使命だと思っている」と話し、作家であり、市民であった方の遺志を継承する。
4千字以内で、小説でも童話、詩、エッセーでもよい(9月30日〆切)。小、中、高と部門分けされている。青少年の文学賞への反響は全国に広がり、第1回は99点だった応募が、年々、作品レベルも年々向上し、過去の入賞者からは、高校生の全国童話コンクールの入賞者が出ている。
入選作品を掲載した作品集を作り、市内小中学校や図書館に配布するほか、1冊500円で販売するのが伝統。「めるへん文庫」の審査員も務める画家・絵本作家、長縄栄子さんが描く表紙、挿絵も人気で、第1・2回の入賞作品を一冊にまとめた第1集は完売した。
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