2020年に「訪日外国人客数4000万」を目指して急成長してきた日本の外国人旅行者(インバウンド)。しかし新型コロナウイルスの影響によって、2020年4月の訪日外国人数は、前年同月比マイナス99.9%(日本政府観光局発表)にまで落ち込みました。2013年に1036万人だった訪日外国人観光客は、2007年の訪日外国人観光客はわずか800万人強でした。
今は旅行・インバウンドに関わる人も、自分と大切な人の安全を守り、いかに事業や雇用を継続するか「コロナ後」に向けて何をすべきなのか?日本への観光は今後どんな展開を考えていけるか。
「娯楽だけではない旅の目的」があります。世界にはさまざまな「特別な目的のためにその地を目指す人たち」がいます。自分の大切なライフワークを実現するための旅は、他の場所では代替が利かないのでニーズが強いのです。そして、NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200818/k10012572431000.html
上記の記事に紹介された点も日本への関心が高まっているという点です
実際に、震災後の福島も「サムライ好き」「ニンジャに会いたい」といったように、自分たちの旅コンテンツと相性のいい旅の目的を、特定の層に明確に打ち出すことで大きく回復しました。
レジャーやバカンスだけであれば、近場の観光地でもよいと思ったとしても、学びを通した自己変革のため、あるいは子どもの教育のため「自国にいては得られない気づきと成長のために動く」というのは、強い動機になりえます。
Stay at Homeの期間に、National Geographic Travelerが「Stay Inspired(インスパイアされ続けよう)」というコンテンツを発信したり、Airbnbが瞑想、料理教室、文化講座「オンラインでの体験」のプログラムを充実させてきましたが、新型コロナは「旅と学びの距離を近づけた」と言えるかもしれません。
もちろん、「大自然の中に行きたい」「解放的なリゾートに行きたい」といった大きなニーズも世界共通であるでしょう。ただ、わざわざ日本に来てもらうことを考えると、「旅人の自国ではできない特別な目的や学び」を提供していくための準備は、今後の日本のインバウンドのヒントになりそうです。
旅先を選ぶときには、観光コンテンツの魅力、価格、アクセスなどは重要な要素ですが、新型コロナの後には別の基準も重要になります。
やはり「クリーン(清潔)」というキーワードは欠かせないでしょう。例えばシンガポールでは、政府観光局が中心になって「SGクリーン」という認証制度が始まりました。
ホテルの場合、室内の衛生状態、温度や消毒の回数、従業員の呼吸器の症状の確認などの基準が設けられるそうですが、このような制度が各国で導入され、安全と信頼をPRすることが必須になります。
元Virgin Atlantic広報部長のコンサルタント、Paul Charles氏は清潔のキーワードはとくに都市デスティネーションで重要になると指摘します。公共交通機関や室内アトラクションにおける「クリーンな空間とプライバシーの確保」がキーになりそうです。
フランスは世界で最も外国人観光客が訪れているのに、国際観光収入では第4位に転落しています。1人当たり観光客収入で見ると、アメリカは世界第6位なのに対し、フランスはなんと世界第108位にすぎないのです。ちなみに、タイは第26位と、かなり健闘しています。
日本の国際観光収入はベスト10入りが目前に控えるようなポジションまで上がってきていますが、「1人当たり国際観光収入」で見ると世界で第46位という低水準に甘んじています。アメリカ、中国、スペイン、フランス、イギリス、タイ、イタリア、ドイツ、香港など、まだ多くの「観光大国」があるという厳しい現実もあるのです。
都市別に見ると、東京にある5つ星ホテルは18軒で、世界21位です。興味深いことに、東京は観光都市ランキングでは世界17位です。このように見てくると、日本には2400万人もの外国人観光客がやってきているものの、彼らからそれほどおカネを落としてもらっていないという問題が浮かび上がるのです。タイが観光でこれほど稼げる理由のひとつに、110軒の5つ星ホテルの存在があります。タイの実績は「特殊な娯楽」を求める人に支えられているという批判をたまに聞きますが、それは事実無根のただの偏見にすぎません。Five Star Allianceという有名な「5つ星ホテル」の情報サイトがあります。そのデータによると、世界139カ国に3236軒の「5つ星ホテル」があります。では日本はどうかというと、日本国内でこのサイトに登録されている「5つ星ホテル」はわずか28軒しかありません。これは、ベトナムの26軒を少し上回る程度です。
年間2400万人の観光客が訪れ、G7の一角をなす「経済大国」であるはずの日本に、タイの4分の1、メキシコの3割しか「5つ星ホテル」が存在しない。これは明らかに、日本が国際観光ビジネスを重視してこなかった結果だと思います。
バリ島だけでも42軒です。年間3200万人訪れているメキシコにも93軒の5つ星ホテルがあるのです。
タイはすばらしい実績を上げています。2900万人の観光客しか来ておらず、物価水準も先進国の半分以下であるにもかかわらず、タイの観光収入をドル換算すると、世界第6位の観光収入を稼いでいる計算になります。
もう1つは「サステイナビリティ(持続可能性)」です。フランスのメディアUsbek&RicaのPablo Maillé氏は「エコツーリズムやサステイナブルツーリズムが、コロナ危機後の良心的な選択として再トレンドになる」と指摘します。
もともと、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を発表した頃から、こうした旅への関心は高まっていましたが、とくにバルセロナ、ヴェネツィア、京都のような人気エリアではオーバーツーリズムが課題になっていました。
あまりに多くの外国人観光客が来ることで、住民の生活や、文化財、自然環境に悪影響が出ているので、規制をしながら「持続可能な観光」を目指すという動きです。自分たちの大切な文化や自然に負荷をかけていなかったか、もう一度見つめ直してもよいと思います。
自分たちの大切な文化や自然に負荷をかけない、「観光客の密集を避ける」という対応があいまって「サステイナブルツーリズム」が改めて認識を深めていきそうです。実際にリアルな観光地で旅人たちが求めるのは、それ以外の五感も含めた身体性での楽しみです。
画面上の絶景では伝わらなかった肌にあたる風や水の感覚やにおい、お取り寄せグルメだけでは想像することしかできなかった、その場の雰囲気とセットで楽しめる地域の味。そして、対面でコミュニケーションをするときの独特の空気や間。
こういった、ある意味でデジタル体験のコントラストとなるような身体性を刺激する体験は、観光地の魅力をさらに高めていくはずです。
このように、コロナ危機を経て、観光ビジネスや旅人のニーズに大きな変化が訪れ、加速する可能性は高いと感じます。日本の地域がコロナ後も、世界に向けた観光地として生き残っていくためには、こうした視点を考えることが長い目で見て競争力を高める機会になるはずです。
外資系のラグジュアリーブランドの傘下に属さない日本のホテル御三家など、日本のおもてなしの粋を磨き、ニューオータニなどはほとんど毎日のように新企画をリリースするのが特徴で、近年は屋外プール「ガーデンプール」をゴールデンウィークと夏場に昼夜開放し、インスタ映えを狙う若者客の人気を集めている(今年は完全予約制)。
少子高齢化によって社会保障が重い負担となっていくこの国では、「観光」こそが大きな希望になりうる。
成功のカギはやはり各社の不断の創意工夫に尽きるだろう。
出典:東洋経済(6/9 ,7/17 )