間もなく、『オフィシャルシークレット』という映画が公開される。実際に起きた2003年のイラク戦争の裏舞台で、国際的な情報戦線が動いていたこと、その顛末を描いている。映画の主人公は、実在の人物。一人の女性が戦争反対の立場で、国際社会に自分の利害を超えた情報リークを行ったため、機密漏洩によって裁かれた「キャサリン・ガン事件」として英米ではよく知られる。実際の彼女は、広島で英語を指導していたことがあり、原爆と戦争の恐ろしさ、後遺症までも日本で認識していた。
国家と戦う覚悟、逮捕される恐怖や政府と戦う恐怖を感じたのは想像に堅い。その気持ちを乗り越え、イラク戦争を止めようと、勇気を胸に違法な工作活動を促すメールの内容を告発した。このような重大な内部告発、まして自分の損得、恨みではない。そのことを、マルシア&トーマス・ミッチェルが2008年にノンフィクション『The Spy Who Tried to Stop a War』として出版。この原作を下敷きに、2019年に米英合作映画として映画(監督はギャヴィン・フッド)が作られた。しかし、日本での公開はコロナ禍での時機になり、ソーシャルディスタンスを守りながら、やっと8/28(金)に決まった。
あらすじ:(英語なので、複雑な国際情勢を理解しやすく、ネタバレぎみです)
英国の諜報機関GCHQ(英政府通信本部)で働くキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)はある日NSA*から驚きのメールを受け取る。
盗聴を要請するそのメールの内容に憤りを感じたキャサリンは、元同僚の友人を訪ね、マスコミにリークしたいと相談する。2週間後、英国「オブザーバー」紙の記者マーティン・ブライト(マット・スミス)によってメールは記事化された。GCHQではリークした犯人探しが始まる中、キャサリンは自ら名乗り出る。しかし告発も空しくイラク侵攻は開始され、キャサリンは機密漏洩の疑いで逮捕された。イギリス政府はこのメールの真偽確認を拒否したが、逮捕はメールが本物であると認めたに等しい。解雇のうえ、機密法に違反するとして告訴された。キャサリンは、この行動はどこからの依頼でもなく自分の判断によるものであり、自分はイラク戦争に反対で、行動は正しいものと確信していると述べた。人権派弁護士ベン・エマーソン(レイフ・ファインズ)らが彼女を救おうと立ち上がる。
2004年2月に法廷は開かれたが、検事側が証拠提出をしなかったため、うやむやのまま裁判は終了。キャサリンは無罪放免となった。検事側が証拠提出をしなかったのは、事が秘匿されるべき情報活動に及ぶことと、イラク戦争の正当性について派手な法廷闘争を行うことを忌諱したからだと思われる。映像が一人の女性をとらえ、彼女が知り得た情報に苦悩しつつも、正義、平和、戦争の惨禍に思いを巡らし、告発行動をとった過程を描く。国家が一人の女性を逮捕し、どのような結末に動いたのか、映像に残した硬派の作品だ。
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*NSA:アメリカ国家安全保障局 は、アメリカ国防総省の情報機関の略称。