米国と中国、ロシアによる宇宙の支配権をめぐる競争が激しくなってきた。日本は、航空自衛隊のスペースデブリ等監視部隊を宇宙作戦隊として、2020年(令和2年)5月18日、航空自衛隊府中基地に防衛大臣直轄部隊として新編していた。
米国とロシアは27日、ウィーンで宇宙空間の安全保障に関する協議を7年ぶりに開いた。宇宙軍備管理では、各国の衛星を守るために宇宙空間への兵器配備の制限などが焦点になる。協議ではロシアがミサイル防衛システムを含む兵器配備に反対。一方で米国は配備制限に慎重で宇宙での好ましい行動をまとめた指針の策定を訴え、議論は平行線に終わったとみられる。中国を交えた3カ国協議や米ロ軍当局者の対話ルート設置も議題にのぼったようだ。
米空軍で宇宙政策に携わったブライアン・ウィーデン氏は「米中ロの大国間競争下では宇宙空間が直接的な戦闘の場になる可能性が高まる」との見方を示す。衛星は軍事施設や攻撃目標の偵察、ミサイルの早期探知、各部隊間の通信仲介、武器システムの精度向上といった幅広い役割を担い、宇宙は作戦領域としての重みが増している。
米宇宙軍によるとロシアは15日、地球周回軌道上の人工衛星「コスモス2543」から物体を別の衛星に向けて発射し攻撃実験を行った。ロシア外務省は自国の機器の検査が目的で国際法に違反していないと主張したが、米国は2017年にも同様の実験が行われたと指摘。ロシアが同一軌道で接近して衛星を攻撃する「キラー衛星」の開発を進めていると疑う。
中国についても米国防情報局(DIA)は19年の報告書で、中国が地上から低軌道の衛星に搭載したセンサーを攻撃するレーザー兵器を20年中に導入するとの見通しを示した。中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に造った人工島の一部には電波妨害装置が配備されたとされ、米軍の無人偵察機が使う全地球測位システム(GPS)を混乱させて偵察活動を無力化する狙いとの見方が出ている。中国は30年に米ロに次ぐ「宇宙強国」となる目標を掲げ、軍事力強化と一体で宇宙開発を急いできた。6月には中国版GPS「北斗」が完成した。
米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、中国は19年にロケット発射を32回成功させた。ロシア(25回)や米国(21回)を上回り2年連続で世界で最も多く、軍事情報の収集にも使える衛星システムを充実させている。また、中国は07年に地上発射型の弾道ミサイルで人工衛星を破壊。大量のデブリ(宇宙ごみ)が発生して他国の衛星を危険にさらした。だが条約履行に関する紛争解決メカニズムが未整備で、各国は中国への懸念を表明するにとどまった。宇宙軍備管理をめぐっては1967年に発効した「宇宙条約」があるものの、同条約では核兵器を地球周回軌道に乗せないことなどを定めたが、軍備管理としての効力が薄いとの指摘が目立つ。
ミサイルを使った人工衛星の撃墜実験はインドも19年に成功した。同様の実験に成功したのは米ロ中に次いで4カ国目。インドは防衛が目的で特定の国を標的としていないと説明したが、対立を抱える中国やパキスタンをけん制する狙いがあったとみられている。
米軍も宇宙利用を加速する方針だ。19年1月にまとめた「ミサイル防衛の見直し(MDR)」では地球規模でミサイルの追跡を可能にする高性能センサーを宇宙に設けたり、宇宙からミサイルを迎撃したりする構想を打ち出した。予算や技術面で課題が残るものの、80年代に浮上した戦略防衛構想「スター・ウォーズ計画」を想起させた。トランプ大統領は新軍種としてのアメリカ宇宙軍(United States Space Force)の設立構想を2018年に明らかにし、2019年12月20日に正式に設置した。
ロシアの軍事専門家、エウゲニー・ブジンスキー氏は米国が宇宙での軍拡に動くなかで具体的な国際規範づくりは困難だとの見解を示す。中国も宇宙分野では米ロに依然として劣っているとみており、米国が軍拡を続ける限りは追随する可能性が高い。米ロの軍縮条約では19年に中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効した。21年2月には新戦略兵器削減条約(新START)の期限が切れる。延長を訴えるロシアに対し、米国は軍縮の枠組みに中国を加えるべきだと主張している。米ロに比べて核保有数が少ない中国は参加を拒否し、軍縮交渉は難航している。
一方で米ロ首脳には軍縮分野を両国関係の改善の突破口にしたい思惑もある。23日の電話協議では軍縮協議の緊急性を確認した。ロシアのプーチン大統領が開催を呼びかける国連安全保障理事会の常任理事国の5カ国による首脳会議で議論する意義も指摘した。宇宙の軍縮も議論し、多国間連携を主導して存在感を示したい考えとみられる。米ロは28〜30日にも核軍縮をめぐる協議をウィーンで開く。
出典:日経新聞(7/28)