中国観光研究院による総括では予約、健康、自然などといったキーワードが挙げられた。77.4%の旅行者が観光施設の事前予約を利用し、ドライブ旅行を選んだ旅行者の比率は過去最高水準の64.1%。59.9%が安全や衛生のためにより高い金額を払うと答え、宿泊先としては、旅行予約サイトにて、自然景勝地リゾートの一軒家ホテルの検索数が200%以上増加したという。
東京と上海を拠点に中華圏向け日本テーマ型旅行予約サイト「Tabeee Market(探蜜営)」やインバウンドマーケティング支援事業を手がけるENtrance株式会社代表で、日中ツーリズムビジネス協会代表理事も務める王璇氏は「人の密集を避けた旅行スタイルに注目が集まっています」と話す。
「5月連休の旅行は近場のテーマパークや公園、古い街並み散策、ドライブやキャンピングカーといったレジャーを楽しむ傾向が目立ちました。新疆や雲南省など、過密な観光地を避け施設のしっかりしたリゾート地への旅行も人気でした。旅行保険や衛生対策への関心も高かったようです。その一方で、クラウドトラベルと言われる、博物館などのインターネット中継を家で楽しむ人たちもいました」
複数の民間調査によると、外国人旅行者の日本人気は依然として高い。中国、台湾、香港で渡航解禁後に行きたい海外旅行先を聞くと、どの調査でも日本が一番だ。
中国の旅行会社と調査会社および太平洋アジア旅行協会は3月、共同で「新型コロナウイルス収束後における中国人旅行者の意識調査」を中国国内で実施し、「収束したら2020年のうちに旅行をしたいか」という質問に「いいえ」(13%)、「まだわからない」(27%)を上回り、60%が「はい」と回答した。そのうち45%が海外旅行を希望し、行きたい旅行先についてはタイや欧州(共に14%)を抑え日本が18%で1位だった。日本インバウンド・メディア・コンソーシアムが4月上旬に実施した調査でも、中国人の希望する渡航先は日本が44%で1位、タイが14%で続いた。
ペイサー株式会社が4月下旬に行った「中華圏のコロナ終息後の訪日意識調査」では中国人の95.5%、台湾人の88.8%が、コロナ終息後日本に旅行したいと答え、時期としては2020年中に日本に旅行したいと答えた中国人が62.0%、台湾人が43.0%だった。5〜8月との回答を寄せた気の早い中国人も2割を超える。海外の観光関係者をヒアリングしても、日本との旅行解禁を「前のめりで」待っているという声を聞く。
「これだけやっています」と到着以前にインターネット予約検討段階で声高に発することが必要な時代になった。
加えて来訪時にも、入り口に消毒液があるか、受付ではスタッフがマスクや手袋を着用しているか、精算は非接触決済になっているかといった顧客に見える部分の備えとともに、顧客にマスクの着用や列に並ぶ際の距離、一定の人数以上は入場させないといった制約や行動の義務付けを要求することが、この施設は対策が徹底しているという安心感につながるだろう。お客さまに「できません」と答えることを極力良しとしないサービス業も、安全安心のためには顧客に「No」を言えるようになる態度変容が求められる。
海外では都市封鎖=ロックダウンで厳しい外出規制、スマートフォン位置情報による感染者接触可能性の個人特定や、陽性の際の厳格な隔離など、政府が主導する感染予防措置を人々は耐え忍んできた。香港では空港到着時にPCR検査の後、結果が出るまで1回しか解錠できないルームキーを渡され入室したホテルの部屋から一歩も出られず、陰性で帰宅が許された場合も14日間無断外出を検知するリストバンドの装着が義務付けられる。
そのようにして安全な社会生活とその先に自由な行動を手に入れた彼らは、段階的に旅行が緩和される中でも、感染第2波を予防するために、旅行者にも必要な行動制約が求められるのは当然と考えるだろう。そんな現実に直面し続けた外国人旅行者が、日本の旅行先で何も行動要求や制限をされなければ拍子抜けして、かえって対策が不十分なのではと不安を覚える結果にもなるだろう。
5月連休の中国国内旅行では、屋外型歴史的遺跡、山岳エリア、サファリパーク、古い街並み、農家民宿ツアーやオートキャンプ場など、アウトドア型のレジャーが選好されたという。
2019年の宿泊旅行統計調査(観光庁)では、関東1都3県、関西2府3県、東海4県、北海道など16の都道府県で中国人客のシェアが1位だったように、これまでは大都市圏を中心としたメジャー観光地が人気の中心だったが、その傾向にも変化が訪れるかもしれない。「人が少ない」ということを売りに地元の観光資源を磨き上げる地方部に、これまでよりチャンスが広がるだろう。
外国人旅行者の立場としても、世間で旅行自粛ムードが完全に晴れないうちにいち早く日本に旅行し、ウイルスをもらって帰ってきて自宅監禁、というような不名誉は避けたい。
「今後は大型バスによる大人数の団体旅行はしばらく敬遠される可能性がある一方、個人や家族グループ×2組くらいの小人数グループの間で、日本旅行人気は間違いなく復活するでしょう。一方、密を避けた地方部への旅は、現地での二次交通が不便になります。中国の運転免許では日本国内で運転できないため、ドライブ旅行はできません。地元のタクシー会社やバス会社による小人数グループ向けの輸送サービスが、地方周遊の旅費が割高にならない解決策としてニーズが出てくるでしょう」(王氏)
出典:MSニュース(6/3)