押谷仁 (2019年度) 新型コロナウイルスに我々はどう対峙すべきなのか
封じ込めが現実的な目的として考えられない以上、対策の目的はいかにして被害を抑えるかということにシフトさせざるを得ない。国際社会が協力してこの目的に向けた最善策を探っていく必要がある。その鍵を握るのは中国である。
新型コロナウイルスはまったく違う。重症化する人の割合は低いが、重症化した人ではウイルスそのものが肺の中で増えるウイルス性肺炎を起こす。重症のウイルス性肺炎は治療が困難で、日本でも救命できない例が出てくる可能性は十分に考えられる。寝たきりの高齢者などにとってもこのウイルスはもちろん危険なウイルスであるが、中国では50−60代の人も多く亡くなっており、30−40代の人の死亡も報告されている。多くの人にとっては、季節性インフルエンザと同じ程度の病気しか起こさないウイルスだからといって、決して侮ってはいけないウイルスである。
学校閉鎖は流行初期には有効な対策と考えられるが、今回の新型コロナウイルスでは子供の感染は少なく学校閉鎖が感染拡大のスピードをコントロールするために有用であるとは考えにくい。
都市の封鎖やクルーズ船に対して行った船上検疫といった対策は19世紀に行っていたような対策である。21世紀に暮らす我々はもっとスマートな方法で感染拡大のスピードを抑えていく必要がある。東京オリンピックに備えて考えられてきた在宅勤務・テレビ電話会議・時差出勤などを前倒しで実施することは当然考えられる。宅配システムを使って高齢者や基礎疾患のある人に日用品を届けるといったことも可能かもしれない。地域でさまざまな工夫をしながら社会機能を止めることなく感染拡大のスピードを抑えていく必要がある。それらの対策は、感染拡大が明らかになってから実施するのではなく、今すぐ実施する必要がある。今、1つの感染機会を減らすことはその先につながる100人あるいは1000人への感染連鎖を断つことにつながる可能性があることを忘れてはいけない。
今回のウイルスの病原性は17年前のウイルスよりもはるかに低いものの、そのことが感染者の検知をはるかに難しくしている。さらにグローバル化の進展により、我々はこのウイルスに制御不能なほどの拡散スピードを与えてしまった。
参照HP:https://www.med.tohoku.ac.jp/feature/pages/topics_217.html