形式的な儀式を極力省いた葬儀のかたち「直葬」がいま、都市部を中心に増えている。直葬とは、故人が亡くなった後、安置所か自宅に遺体を運んで安置し、その後、直接火葬場に移し、荼毘に付すという方法。会葬者を呼んで通夜や告別式を営み、それから火葬する一般的な葬式に比べて、近親者のみで行う「直葬」はお金もかからない。ここ15年ほどで“葬儀はシンプルにしたい”という人が増加傾向だと言う。かつて直葬は、自治体が身寄りのない故人や生活困窮者の場合に、葬儀費用を賄って行われる方法だった。
少子高齢化がますます進み、直葬を選ぶ方の理由は、単純に安いことと、親戚も高齢化で遠方から来られないから普通の葬式を挙げてもしょうがない、という現実問題がある。なお、自治体から葬祭費が出る制度があり、死亡者が加入している保険や自治体によっても異なるが、例えば所沢市では国民健康保険に加入していれば、5万円が支給される。また火葬代は火葬場によっても異なるが、所沢市の場合、火葬代のみであれば12歳以上の市内居住者で5000円。無料の自治体も多い。
一般葬の場合、平均額は約178万円。一方、直葬は平均15万〜30万円と、6分の1以下に抑えることができる。通夜の飲食費や斎場の式場料、祭壇費用などがかからない。 直葬を希望する場合、最低限必要な次のような物品やサービスがセットになった一番シンプルなプランを選べばよい。遺体の安置場所を確保し、病院や施設など亡くなった場所から、故人の遺体を寝台車にのせ、自宅や一時的な安置場所に搬送する。遺体を棺に納め、安置する。法律で定められた時間の死後24時間以上経過してから、火葬場の予約時間に合わせ、霊柩車で火葬場へ出棺する。もちろん、物も用意してくれる。遺体を入れる棺、棺用布団、故人に着せる仏衣一式、遺体保冷のためのドライアイス、枕飾り一式、骨壺、そして遺体をのせて移動する寝台車や霊柩車だ。霊柩車と言えば、神道や仏教の建物様式を模した宮型霊柩車を思い浮かべる人も多いはず。ところが最近は、“縁起が悪い”と近隣から苦情が来ることから、火葬場のほうで禁止され、セダンをベースにした高級感漂う洋式霊柩車や通常のワンボックスカーが使われることが多いそうだ。
簡素化が進む葬儀だが、一方で遺体の状態に対する意識はむしろ高まっているようだ。2008年公開の映画『おくりびと』で遺体の状態を管理し、見栄えを整える納棺師の仕事が注目されたが、遺体の保存装置も向上している。株式会社クーロン(東京都日野市)では従来の遺体保存で一般的だったドライアイスを使わず、パーシャル方式で遺体を冷蔵する遺体保存装置「ペルソナ」を開発・販売している。代表取締役の阪口茂氏が解説する。
「パーシャルというのは、食品の冷蔵庫で使われてきた技術で、マイナス3〜4度で保冷します。ペルソナでは、水の分子と同じレベルで波長の振動を与えることで水の分子を共振させ、氷点下でも凍結せず、細胞を破壊せず、ご遺体を良好な状態で保存できます。遺体撮影専門のカメラマンさんからも『ペルソナで保管した遺体はきれいですね』と言ってもらえるほどで、ドライアイスとの違いは一目瞭然です」
1台あたりの価格は280万円と、初期費用は従来型の装置よりも高価だが、ドライアイスを使って遺体を保冷すると1日あたり4000円程度かかるのに対し、ペルソナは1カ月稼働させても電気代が6000円程度とランニングコストの面で優れている。また、二酸化炭素を排出するドライアイスよりも環境負荷をかけないというメリットもあるという。
厚生労働省の統計によれば、年間死亡者数は、1990年=82万305人、2000年=96万1653人、2010年=119万7012人、2016年=130万7748人と推移しており、年々増加の一途をたどっている。高齢化に伴う「多死社会」を迎え、国内の年間死亡者数は年々増加の一途をたどり、火葬場不足が起きている。今後もこの傾向は変わらず、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2040年には167万人を超えると見られている。場所や時期、時間帯によっては、火葬申込みから1週間から10日程度も待たされることも珍しくないという。また火葬場の建設計画が持ち上がると地域住民から必ず「地域のイメージが悪くなる」という反対意見が上がり、なかなか新設も行政の思うようにいかない。規模の縮小が避けられない日本経済の中で葬儀業界はすそ野が広がっている産業である。今後さらに革新的な技術やサービスが現れることに違いない。
参照:週刊新潮WEB
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