韓国の一般市民は日本や日本人が嫌いなわけではなく、日本政府のやり方に怒りをもつのだという。実は、日本大使館前は行われる抗議集会も、正式名称が「安倍糾弾キャンドル文化祭」なのだという。「キャンドル文化祭」というのは、あの朴槿恵前大統領を退陣にも追い込んだキャンドルデモのことだ。韓国の市民デモは天を震わせ、地を揺るがす。つまり、香港の事態とは別に、自国政府への態度を決する韓国民主主義を象徴する大衆運動のスタイルとなっている。前大統領を退陣に追い込んだキャンドルデモは初回で2万人、2回目で20万人、3回目で100万人を動員した。
ところで、今回の「反安倍デモ」の参加者は3回目でも1万5000人ということで、かなり規模が小さい。日本大使館前では、従軍慰安婦問題や竹島領有権問題での集会はひんぱんに行われているが、一般市民を巻き込んだ大規模なものは少ない。これまでも日本関係のデモは、だいたいがそうだった。
それよりも、1990年代以降の大衆デモといえば、「反米デモ」の方がイメージとしては強かったのだった。
そもそも、キャンドルデモの起源となったのは2002年、米軍の装甲車に轢かれて亡くなった女子中学生を追悼する集会だった。
装甲車を運転していた米兵に、まさかの無罪判決。韓国人みんなが驚き、悔しい思いをした。
人々は手に手にろうそくを持ち、韓国全土で抗議の意志表示をした。
さらに、2008年にも大規模な反米デモが起きた。この時はBSE(いわゆる「狂牛病」)のために輸入禁止だった米国産牛肉を、政府が米国との取り決めで解禁してしまったのが発端だった。この時は中高生や主婦が中心となり、「キャンドル文化祭」の名前で連日のように集会が開かれた。ピークには100万人が参加し、ついに李明博大統領(当時)の謝罪を引き出すまで、なんと3ヶ月以上も続いた。
日本には「韓国=反日」と思いがちだが、むしろ反米運動の方が大規模なものが起きている。
韓国の政治の動きは、一般市民のデモの成り行きを見て決められている節がある。ある意味、素晴らしく透明であるといえる。
一般の韓国人の成熟した様子だ。過剰とも思えるパフォーマンスもある。でも、市井には冷静な人たちがいる。それを知っているから、在韓日本人は安心して暮らせるし、「韓国に旅行に行きたいけど大丈夫?」と聞く日本人にも、「普段と変わらないよ」と答えることができる。
そこで思うのは、果たして逆はどうだろうかということ。はっきりいえば、今は日本の「嫌韓」の方が予想不能だ。ネット上はヘイトスピーチや脅迫があふれており、在日韓国人の友人たちの多くが、身も知らぬ他人から嫌がらせにあっている。それでSNS(特にツイッター)をやめてしまった友人たちもいる。
その中には個人や民族に対する侮辱に加え、「従軍慰安婦問題は捏造だ」など本人に関係ないことを言ってくるケースもある。韓国では政府も一般の人も、「これは日本政府への抗議であって、日本国民に向けたものではない」と言ってくれるが、でも、「日本国民」にもいろいろな人がいるのだ。
それは、ネット上だけでない。つい最近も、日本に来ていた韓国人観光客が飲食店で暴言を吐かれ、店から追い出す様子が写っている動画を見た。また、地下鉄で韓国語で話していて、日本人から「うるさい、帰れ」と言われた若い女性も知っている。さらに、職場の上司や取引先の日本人から、「韓国さあ、どうかならないの? 文在寅って何でああなの?」とか、仕事と関係ない韓国の話をしょっちゅうされるという話を、在日韓国人の友人から聞いた。
過去には在韓日本人が嫌な経験もした。でも、最近は本当に少なくなった。韓国の人々の対人マナーはとても洗練されたし、テレビニュースなども、日本政府批判をさんざん流した最後には、「それでも皆さん、日本人観光客には親切にしましょうね」とアンカーがまとめる。
出典:現代ビジネス(8/15)