スタンフォード大学・ジェフリー・フェファー教授の研究によると、「時給制」は人の心をむしばむ可能性を示した。雇用主が「時は金なり」思考をやわらげ、正規雇用者でなくとも、時給ベースではない制度に切り替えることを検討してもよいのではと提案する。「われわれはまったく健康的ではない、非常に過密なスケジュールの元に暮らしていますが、中でも、自分の時間の『金銭的価値』を常に考えている状態は、決していいことではありません」と言う。「時は金なり」グループのコルチゾール値は25%近くも高く、実験中に2度の休憩を与えられて芸術を鑑賞したり音楽を聴いたりすることが許されている間にも、あまり楽しいと感じていないようだったのだ。
自分の時間の経済的価値を強く自覚している人(「時は金なり」と考える人)は一般的に、それほど強く認識していない人と比べて心理的ストレスをより感じやすく、ストレスの生理学的指標であるストレスホルモン、コルチゾールの分泌が高くなるという。
また、ボストン・カレッジのM・キャスリーン・ケイヴニーによる研究 「1分あたりいくら稼いでいるか」を意識して仕事をさせるとどのような影響がでるかで、高収入と職業的名声を享受している弁護士の多くが、自分のキャリアに満足しておらず、ときにはその職業を棄ててしまう理由を調べた。結論は、弁護士はしばしばクライアントに、「相談1時間あたりいくら」といった課金の仕方をするが、そのように時間を「支払い請求可能な単位」として測られる彼らが、時計を極端に意識しているから、だった。 彼らは友人と食事をしているときや子どものサッカーの試合でコーチをしているときなど、仕事をしていないときにも、その同じ時間にもし仕事をしていたら、と考え、どれだけの収入を「犠牲にしているか」と考えてしまうのだ。
非正規労働者が単発で仕事を請け負ういわゆる「ギグエコノミー」の隆盛を考えると、今回の実験結果はとりわけ悩ましいと言う。「ギグエコノミーがもたらすストレス誘発的な側面は、人類全体の健康に影響を与える可能性がある」と研究では結論づけている。
「現代では多くの人が常に、自分の時間の経済的価値を計算している。そしてどの調査結果を見ても、時間と金額を関連づけて考える人は、人生を楽しめていないことがわかります。彼らには忍耐力がなくなり、音楽や沈む夕陽を楽しむことができない。子どもにサッカーを教える時間が『収入いくら分』になるかを計算しても幸せにはなれない」
ちなみに今回の研究では、ギリシャのイカリア島の住民があまり時計を気にしない、非常に長生きしている、という結果も出た。
参照:Forbes