杉本裕明(元朝日新聞記者。廃棄物、地球温暖化など環境問題を取材。現在、NPO法人「未来舎」代表。)は環境問題を25年間追い続けている「ルポ にっぽんのごみ」の著者、日本のごみ処分は「焼却至上主義」だといい、ごみ焼却施設は余っている状態だと硬直化したごみ行政を批判する。
日本がバブルに突入した時代、ごみは右肩上がりに増え続けた。そのころの日本のごみ処理は「燃やして埋める」のが基本だった。そのため各地の自治体は、焼却施設と埋立処分場の整備に追われた。しかし、バブルの崩壊によって、その大前提は崩れることになる。
バブル崩壊後の景気低迷により、経済活動が停滞。また、1991年に成立した「リサイクル法」でリサイクルが促進され、各自治体がごみ削減に取り組んだことで、ごみの総排出量は、2000年の5483万トンをピークに減少トレンドに入り、2013年には4487万トンにまで減った。
環境省が毎年公表する「日本の廃棄物処理」によると、ごみの焼却量は2001年の4063万トンから下がり続け、2013年には3373万トンに。杉本氏によると、2013年度に全国で燃やしたごみの量は3373万トンなのに対し、現在日本にある1172の焼却施設で、年間どれだけのごみを燃やせるかを計算すると、実際に燃やした量の46%増し、つまり焼却能力には約1.5倍の余裕があることになるという(※年間270日間稼働したと仮定して計算)。
東京では、23区清掃一部事務組合の予測以上にごみが減り続け、清掃工場を維持するために、ごみの確保が“課題”となった。中でも1日に1800トンの焼却能力を持つ大規模施設である「江東清掃工場」で状況は深刻で、ごみ確保のために本来は搬入禁止だった県外からとみられるごみも受け入れていたという。一方で、ごみが減り続ける現状に合わせて、焼却施設を休廃止した自治体もある。横浜市では、「栄工場」(2005年)、「港南工場」(2006年)を廃止、2010年には「保土ヶ谷工場」を休止した。3工場で1日当たり3600トンの焼却能力があったが、それでも現状、まだ3割以上の余裕がある。
名古屋市の「南陽工場」は3つの炉を持ち、1日に1500トン焼却できる。しかし、現在稼働しているのは1炉だけ。つまり、500トン分しか動かしてない。杉本氏は「こんなところが全国にいっぱいある」と語り、構造的な問題が背景にあると指摘する。「自治体は補助金がたくさんほしい。だから“身の丈”より大きめの施設が欲しくなる。プラントメーカーも焼却施設が売れれば儲かるので自治体に攻勢をかける」。
ドイツでは、複数の選択肢を持って、ごみ問題に対応している。けっして焼却処理を否定しているわけではない。ドイツでもごみは燃やしている。ただ、日本と異なるのは、ごみ焼却によるエネルギー回収率の高さだ。さらにドイツでは、個々の施設の規模が大きく、発電と熱回収を合わせたエネルギー回収率は40%を超える。日本は小さな焼却施設が多く、発電設備を持つ施設は3割弱。しかも、市街地から離れた場所に立地することが多いので、地域に熱供給しているケースは少ない。
容器包装ごみの回収・リサイクルについて、ドイツはその責任を製造者に負わせる「拡大生産者責任」を世界に先駆けて導入し、高いリサイクル率を誇る。ドイツでは年間のごみ排出量の46%を資源ごみとしてリサイクルしているから、販売店に空き瓶を持ち帰るなどする手間をかけるのが日常である。その点、日本は戻してもタダ同然なので店舗回収の勢いがつかない。それでも分別収集されたごみは市町村などの自治体によって適正に処分され、適正にリサイクルされていると思っているだろう。しかし、実際に自分が出したごみがどんな風に処理されて、どんな風に活用されているのか、あるいは活用されていないのかを知れば、「いまのごみ処理の方法でいいのか考えると思う」と杉本氏は力を込める。