アップル、グーグル、アマゾンなどのICT(情報通信技術)企業が隆盛を極め、AI(人工知能)、IoTといったデジタル技術の発展が注目される中、「日本のものづくりは大丈夫か」と不安視する向きがあります。これから日本企業が採るべき1つのアーキテクチャ戦略が「中インテグラル(クローズド)・外モジュラー(オープン)型」による「強い補完財企業」戦略です。プラットフォームはオープン・アーキテクチャでも、それを構成する個々の補完財の中身のアーキテクチャはインテグラルでありえます。そこで、ものづくりの現場は中アーキテクチャの高度化を追求します。
中身が高度で複雑であればあるほど、他社は真似をしづらくなります。ただし、顧客ごとに一からカスタマイズをしていては、コスト高で利益が出ません。そこで、本社は自社が主導権を握りつつ外とつながるために、外側のインターフェースの標準化を仕掛けるのです。
村田製作所やシマノは、なぜ世界で成功したか振り返ると、その代表例が、日本のセラミックコンデンサー産業です。例えば村田製作所は、ものづくりの強みに加えて、自社製品の寸法規格を事実上の業界標準としてユーザー企業に認めさせています。その結果、1個1円以下のセラミックコンデンサーを大量にスマートフォンメーカーなどに販売し、高収益を上げています。
自転車部品メーカーのシマノも、こうした戦略を採る企業の1つです。各自転車メーカーでは、シマノの部品を使うことを前提とした製品開発が当たり前になっています。
周辺国の動きを見ると、この戦略は今後ますます有望です。これまで、アメリカはハイテク・モジュラー国、中国はローコスト・モジュラー国でした。両国がタッグを組むことで、ハイテク製品の低コスト生産が可能になり、高コストでモジュラー型が苦手な日本は1990年代から2000年代にかけて苦戦を強いられました。しかし、中国の人件費上昇で、10年代に入り、生産性を高めることで中国とコストで勝負できる日本企業が出てきました。
中国は今、製造業発展のための長期戦略「中国製造2025」を掲げ、アメリカのようなハイテク・モジュラー国を目指しています。シーメンスの戦略もあり、レゴブロックのようにシステムを組んだモジュラー型の自動化工場を中国は次々と導入しています。これらの動きを踏まえると、今後は米中両国がハイテク・モジュラー国としての覇権を争うことになります。より高性能な製品をモジュラー型で作るには、モジュール自体は高度でなければならないため、インテグラル化します。すると、インテグラル型が得意な日本企業には米中双方から注文が殺到する可能性があります。
したがって、日本企業が得意としてきた現場力を今後も強みとして地道に向上させていくことが日本の将来を拓くことになります。そのうえで、これまで弱かった本社の戦略構想力を高めていくことが重要です。強い現場と強い本社の両輪が回れば、日本企業はそうそう負けないはずです。
出典;President Online 19/02/02
東京大学大学院経済学研究科教授・ものづくり経営研究センター、長藤本隆宏