女優・寺島しのぶが、フランス人のローラン・グナシアさんに出会い、「この人しかいない!」と思ったという。そこで、フランス人ですが英語が話せる人だったので、たどたどしい英語でアプローチし、思いを伝えるのはもっぱらメールで、調べて調べて、書いて書いてで英単語を増やしていったのだという。
もともと日本が大好きで、海外への挑戦なんてこれっぽっちも考えていなかったのが、英語で話したいと本気で思った。最初の頃は一緒にお茶しても、それこそ会話がなく、「コーヒー、プリーズ」ぐらいだった。一緒にいると楽しいから英語を話したいと思うし、何より自分の気持ちを伝えたいという思いが強かった。それで英語の勉強を始めた。
一番身についたのは彼との言葉(会話)から。伝えないと伝わらないから必要に駆られて勉強した。結婚して11年。夫婦の会話は英語だ。今も「シン(心)グリッシュ」ですが、積極的に話す努力してきた。わからない単語が出てきたら、すぐに電子辞書で調べ、流しっぱなしにせず、そこで理解する。その繰り返しだという。11年前に比べたら、英語で生活できるくらいにはなったかな。夫は「いつまで経ってもうまくならないね」って顔して私を見てますが(笑)。
英語はかぶれないと上達しない。まず聞くことに慣れる。いまだにパーティーは苦手ですが、英語を話せるようになったことでイヤではなくなったのだそう。海外の映画祭や外国人の多いパーティーに参加しても物怖じせず、これでいいと思えるように上達した。普段から夫とホームパーティーを開くこともあり鍛えられてきたのかも。多いときは60人くらい。フランス人、イタリア人、アメリカ人……と国籍はいろいろ。共通言語は英語ですから、鍛えられてきた。
外国人はパーティーで会話を楽しむ。なぜこんなにしゃべるんだろうと思って聞いていると、そこでいい関係がつながっていくことがある。外国人にまみえることで外国人への抵抗がなくなっていったそうだ。
英語を話せればコミュニケーションは取れるし、外国の方々がよくしてくやすい。日本人は本心を言わないと思われていますから、意見をきちんと言うと、「この人はわかりやすい日本人かも」と思ってくれる。日本人は人当りはいい人だけど、本音のところがわかりにくいと思われているので、兎も角話してみることだ。夫に出会ったことで英語に対する苦手意識がなくなったから、英語は楽しく学ぶことが上達の近道だ(笑)。
英語を学んで一番良かったことは、やはり人生の伴侶を得たことであり、長男・寺嶋眞秀くん(まほろ、4歳)が生まれたこと。夫、ローラン・グナシアさんが仏人のため日仏ハーフ、本名は「寺嶋・グナシア・眞秀」。まん丸の瞳がキュートな黒髪の日本男児顔で、歌舞伎デビューも果たした。歌舞伎が大好きだが「将来何になりたいか?」を聞かれると「仮面ライダー」と答えた。理由は“強いから”だという。
また祖父にあたる尾上菊五郎は「息子じゃなく孫だから気楽だし、この先はどうなるかも分からない。」と。寺島は「将来は彼の自主性に任せたい」と話しているが、闘志を湧かせているのは周囲が承知だ。自身が弟の菊之助が歌舞伎で初舞台を踏んだ時に、家が弟を中心に回り始め、女が歌舞伎の舞台に立てないことも知って、疎外感を感じて反発した時期があるという。そこで眞秀君みずからが歌舞伎を好きになる英才教育を施した。
菊五郎は昨年、音羽屋の大名跡『梅幸』を、ゆくゆくは眞秀君に継がせると口を滑らせて、男系が継承することが基本の歌舞伎界でちょっとした騒動となった。梨園の風習で才能があるのに娘に何もしてやれなかったので、眞秀君かわいさを口にしたのだとは事情通の談話。今や日仏初の歌舞伎の未来が託されていく道筋がつくられていく。
参照・AERA3月5日号