脳科学者、中野信子 『科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)
やらざるべきか、どちらを選ぶべきかなどで悩んだら、「それが自分にとっておもしろそうかどうか?」で判断するのもおすすめです。 選択に悩んだとき、「おもしろさ」を判断基準にするのです。その理由のひとつは、そのほうが健康によいから。
イギリスのロンドンで行われた調査では、幸福を主観的に感じている人は、感じていない人よりも死亡リスクが35%低い、という結果が出ています。この調査は52〜79歳の約3800人を対象に行われました。まずは被験者に複数の質問に答えてもらい、被験者一人ひとりの幸福度を評価します。そしてその5年後に、被験者の状況を追跡調査したのです。その結果、もっとも幸福度の高いグループの死亡率は3.6%なのに対し、もっとも幸福度の低いグループでは死亡率は7.3%と、約2倍の差が出たのです。これに年齢や生活習慣などあらゆる要因を考慮して、35%という数字がはじき出されました。
ではなぜ、主観的に幸福を感じている人のほうが長生きをするのでしょうか。その理由のひとつは、人の体内にある免疫系の物質で説明ができます。 人の体の中には、その人の心の調子によって変わってくる免疫系の物質がありますが、主観的に幸福を感じている人は、その物質のバランスがよくなるのです。 逆に主観的に幸福を感じていない人は、バランスが悪くなり病気になります。
心の調子によって変わってくる免疫系の物質の代表はナチュラルキラー細胞です。 「病は気から」といいますが、このほかにも、心のもちようが体の健康に与える影響は、あらゆる実験や研究から明らかになりつつあります。 健康には、しあわせと感じる状態を少しでも長く維持できたほうがいいのです。
ところで、おもしろさを判断基準にするとよい理由は、そのほうがやる気が出るから、という面もあります。
人が「おもしろい!」「おもしろそう!」などと感じているときには、脳内の報酬系が刺激されます。すると脳内の伝達物質であるドーパミンが分泌されます。ドーパミンは「やる気」のもととなる物質です。さらに、ドーパミンは中毒性があるため、やりはじめてうまくいくと「もっとやりたい」「もっとやってみよう」と気持ちが起こります。
大阪大学医学部の大平哲也准教授の論文によると、子どもは一日平均300回笑いますが、大人は17回、70歳以上になると2回しか笑わなくなるそうです。笑いを増やすためにも、何かを選択するときに「おもしろさ」を判断基準にするのは大事、といえそうです。
オリンピックの選手などは、「もっとやりたい」「もっとやってみよう」を具現した人たちだ。今大会は、冬の五輪で最高のメダル数となった。