帯津病院名誉医院長、帯津良一 『「いい人」をやめると病気にならない』SB新書
働き盛りの40代、いい人AさんとちょいワルBさんがいたとします。
Aさんは、まじめで努力家なのですが、人間関係を窮屈に考えているところがあります。
そのため、上にも下にも気を遣い、本音を言わず、はめを外すこともありません。
まじめなので健康にも十分に気を遣い、規則正しい生活を送っています。
仕事はできるのですが、主体性をもってやっているわけではなく、上からの命令を忠実にこなしているだけです。
一方、Bさんは、気ままで楽天的、道徳的に見ると不真面目なところもあるのですが、人望が厚く、趣味や遊びにも精通し、懐の深さがあります。 健康には無頓着で、ときにはときめきに任せて好きなものを食べたり、酒を飲んだり、夜更かししたりすることもあります。 Aさん同様、仕事はできるのですが、上からの命令に常に忠実なわけではありません。ときには信念をもって仕事をしているため、いい結果が出せているのです。
これらのことからもわかるように、ストレスに悩まされることが多いのは、いい人Aさんのほうです。ストレスがたまってくると免疫力が低下し、病気になりやすくなるのは言うまでもありません。また、過労から過労死につながる危険性があるのも、Aさんのようなタイプです。
一方、ちょいワルBさんは、仕事もプライベートもときめいているため、ストレスに悩まされることはほとんどありません。ストレスを感じたとしても人生のスパイスとして捉え、困難を乗り切っていけます。そのため、過労が続いても過労死につながる危険性はない、といっても過言ではないくらいです。
二人の定年後を見てみると、さらにこの差は開きます。いい人Aさんは、定年退職してからしばらくは開放感があっていいのですが、友人と会う機会が減っていく一方で、ときめく趣味もなく、時間を持て余してしまいます。 一日中家でゴロゴロしているため、家族からイヤがられるのも、Aさんのようないい人に多いのです。
そんなAさんの最大の関心ごとと言えば、健康法を実践することです。こうなると、ますますときめくことがなくなってしまいます。 健康法もまじめに取り組みすぎてしまうため、かえってストレスになり、病気になりやすくなってしまうのです。まじめな人で、定年退職してから7,8年で亡くなる人が多い、と言われているのも頷けます。
一方、ちょいワルBさんは、定年後も情熱をもって働き続け、阿吽(あうん)の呼吸の悪友もたくさんいるため、ときめき続けます。 健康法を熱心に実践するわけではありませんが、ときめくことによって免疫力が高まり、結果的に病気を遠ざけているんです。そのため、ちょいワルで長生きの人は多いのです。
いい人が悪い、と言っているわけでは、決してありません。 終身雇用、年功序列が崩壊し、成果主義が重視される今、いい人のままでは病気になりやすく、長生きできないのを心配しているのです。いい人で損をすることほど、損なことはありません。あってはならないことです。
「いい人」は、人から嫌われることを恐れ、人に自分の意見を合わせてしまう。 嫌われる、変だと思われることに対処できる程度の「勇気」をもてばいいので、「まわりの人の顔色をうかがうような生き方」をしないほうがストレスがない。それは、傍若無人に自分勝手に生きるということではなく、自律して生きよう、ということ。 自律と自立は違う。 「自立」は独り立ちする、独立して生きるというような意味だが、「自律」は自ら規範を決め、自らに従って動くというように、セルフコントロールができるということ。だから、自分の決めたことによって、嫌われたとしても、「人は人」自分は自分と達観する。
勝海舟が「行蔵(こうぞう)は我に存(そん)す」という言葉を残している。 自分の行ったことの責任は自分にある、だからけなしたりほめたりするのは人の勝手である。
どんなふうに言われてもまったく異存はない、それが自律した人。
ときに、「いい人」をやめることも必要だ。