トランプ米大統領と北朝鮮の間で、激しい言葉の応酬が続いている。8月21日には米韓合同演習が実施予定で、緊張はさらに高まることが予想される。最終的に「米朝戦争」が起きる可能性はあるのだろうか。元航空自衛官の宮田敦司氏は「冷静に分析すれば、危険度が高まっているとはいえない」という。北朝鮮のシグナルを読み解く方法とは――。韓国メディアは8月2日、米空母2隻が8月中旬に朝鮮半島近海へ展開し、韓国軍と訓練を行う方向で検討が進められていると報じた。
空母の派遣は8月21日から開始される米韓合同演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」(以下、UFG演習と表記)に合わせたものと思われるが、実際に2隻の空母が朝鮮半島近海に派遣された場合、再び今春と同じような状況が訪れる可能性がある。
空母の派遣については在韓米軍関係者が否定しており、実際に派遣されるかは現時点では不透明だが、過去にUFG演習終了直後に空母をはじめとする米海軍と韓国海軍が訓練を行ったことがある。
UFG演習は毎年8月に実施される定例の演習で、コンピューターシミュレーションを用いて、戦争発生時の兵力動員態勢の確認などを行うとともに、米韓両軍の即応能力や相互運用性を高めることを狙いとしている。
演習では、韓国政府と地方自治体の職員ら約40万人が参加した危機管理訓練も行われる。昨年は8月22日から9月2日まで実施され、米軍約2万5000人、韓国軍約5万人が参加した。演習期間中、韓国では市民らを対象にした防空訓練も行われた。
今春に実施された約31万人が参加した米韓合同演習「フォール・イーグル」よりも小規模だが、北朝鮮はUFG演習についても「われわれへの先制攻撃を狙った訓練」といった趣旨の声明を発表している。
もともと北朝鮮はすべての米韓合同演習を非難している。このため米韓合同演習が行われるたびに、軍事的緊張が高まる状況が繰り返されてきた。今年も「例年通り」北朝鮮は米韓を強く非難するとともに、弾道ミサイルの発射を行うなどして緊張状態を高めるだろうと推測していたが、案の定、今月8日のトランプ米大統領の「炎と憤怒(fire and fury)」発言以降、激しい言葉の応酬が続いている。
「対米非難」がなくなると、むしろ危険
むしろ、これまでの傾向に反して、北朝鮮が米国に対する非難を一切行わなくなった場合のほうが危険だ。北朝鮮の指導部内で何らかの政治的な動きがあった可能性を意味するからだ。
過去の米朝関係を俯瞰してみると、米朝間の緊張状態は軍事面だけでなく外交面でも意図的に作られる傾向がある。こうした緊張状態の醸成には、強硬発言も寄与する。UFG演習にともない、今春のような強硬発言の応酬というチキンレースのような様相を呈したとしても、北朝鮮側は、米国が空母や戦略爆撃機などによる軍事的圧力を加えることはあっても、武力行使に踏み切ることはないと認識しているだろう。
今春の強硬発言をよく注意してみよう。いずれも「あらゆる挑発を我が軍隊と人民の超強硬対応で粉砕する」といったような、「米国が攻撃すれば、北朝鮮は反撃する」というものであった。つまり、米国が攻撃しなければ反撃しないということである。
今回の双方の強硬発言は8月8日、国防総省傘下の国防情報局(DIA)の「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載可能な小型核弾頭の開発に成功した」との分析が報じられ、トランプ大統領が記者団を前に「世界がこれまで目にしたことのない炎と憤怒に直面することになる」と北朝鮮を牽制したのが発端だった。
対する北朝鮮の朝鮮中央通信が10日に「中・長距離戦略弾道ロケット『火星12』型の4発同時発射で行うグアム包囲射撃を慎重に検討している」と応じた。
南北定期協議(1994年3月16日)での北朝鮮の朴英朱首席代表による「ソウルはここから遠くない。もし戦争になればソウルは火の海になる。あなた方は生き残れないだろう」という、今もよく記憶されている発言は、むしろ例外といえよう。しかし、北朝鮮の弾道ミサイルがグアムを標的としていることは、北朝鮮側がわざわざ明かさなくとも、至極当然のことである。まさかとは思うが、トランプ大統領は、これまで北朝鮮の弾道ミサイルの射程距離に関して報告を受けていなかったのだろうか。
筆者は北朝鮮を擁護するつもりはない。しかし、両国はもはやブラフにブラフで応酬する形になっており、言葉上どこに真意があるのか分からなくなっている。
トランプ大統領はツイッターなどで強硬発言を乱発しているが、米国の歴代大統領でこれほど重要な発言を「安売り」した大統領はいないだろう。国家レベルの意思決定が必要な事項について、大統領がツイッターで「個人的に」発信するのは問題があるのではないだろうか。
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