2016年の中国人訪日観光客は637万人で過去最多となり、「爆買い」と騒がれた15年よりも27%も増加した。中国人観光客は増え続けている。しかし、アメリカ同様に中国は多民族国家であり、社会階層が幾重にも分かれ、分断されている中国人の生活や考え方は、日本人には理解しにくい。富裕層は画一的に見られ、扱われることに不満を抱いている。富裕層が感じている不満を解消すれば、それは新たなビジネスチャンスになるだろう。ちなみに、訪日外国人1人当たりの買い物にかける費用のランクは、1位が中国(14.3万円)、2位が香港(8.5万円)、3位が台湾(5.7万円)である(観光庁「訪日外国人消費動向調査 2015年7〜9月期の調査結果(速報)」から)。
多くの訪日客が見込めるのは、中華圏の旧正月「春節」の休暇(27日〜2月2日)は、観光や小売業の関係者にとって書き入れ時が、中国の大みそかは1月27日で、新年は28日からが春節だ。中国人の“民族大移動”となる。この時期の中国では、国内線の飛行機や鉄道はもちろん、海外旅行に行く人で国際空港もごった返す。どこもかしこもいつも以上に混雑して、殺気立っている。10月には、国慶節の連休があるので、こちらが次なるシーズンだ。
最近は、リピーターがまだ行ったことのない場所を選択。ネットなどを見ながら綿密に旅行計画を立てた。その際、春節は会社が休みになるが、「その時期だけは避けよう」と時期をずらして来日する人たちも現れてきた。航空券が高くなり、混雑するという以上に、中国人の団体観光客と海外で鉢合わせすることに強い嫌悪感を持っていたからだ。
「春節に日本に行けば、団体客と一緒になることは避けられません。観光地に行かなくても、駅などでどうしても遭遇してしまいます。いちばん嫌なのは、そういう時期、日本人の対応がちょっと冷たくなること。中国人の対応に疲れ切ってしまうからでしょうか。見下したような態度で、あまりよい対応はしてもらえません」 夫婦は大の日本好き、留学した経験もあり、日本人のホスピタリティーにいつも感心している。夫婦そろって英語も上手だし、服装も洗練されている。そんな中国人カップルは、日本人の中国人に対する十把一からげな対応にさみしい思いをすることがあるわけだ。
ドラッグストアで大騒ぎで買い物をする中国人観光客の一団に「団体だと気が大きくなるのも理解できるのですが、恥ずかしさに耐え切れず、店を飛び出してしまいました。これまでは有馬温泉とか天橋立とか、静かで中国人客が少ないところに出かけていたので気がつきませんでしたが、あれでは、変なとばっちりを受けないとも限りません」という中国人もいる。
思い返せば、日本にもアルアル「おのぼりさん観光客と一緒にされたくない」という海外旅行での心理、そういう中国人個人旅行客への“スペシャルなおもてなし”をするツアーが次なるブームだ。
たとえばマイクロバスなどを用い、貸し切って周遊するという、タクシー会社が提供しているプランだ。都内から目的地まで往復8時間がセットになっていて、英語や中国語で観光案内もしてくれる。家族や友人だけでゆったろ過ごせるし、好きな場所で車を止めてもらったり、行ってみたいレストランに案内してくれたりする、お抱え運転手のような使い方だ。
数年前から始まっている医療ツアーも人気だ。こちらも夫婦だけ、友だち同士だけで、特定の病院で全身の健康診断やがん検診などを受けながら、露天風呂つきの豪華な施設に宿泊するというもの。中年以上の中国人は健康診断の経験がほとんどなく、健康に不安をもっているので、団体観光ではできない「スペシャル感」を求める人にはきっと満足のいくだろう。
東京・銀座の個室サロンでの高級エステや、高野山の宿坊に泊って高名な僧侶の説法に接し写経をするような体験も、静かな場所でリラックス、精神修養になると大人気だ。いずれにしても、富裕層相手にプラスアルファの付加価値をつけ、その際に、他の中国人客と一緒にならない配慮をする点がポイントだ。団体の観光ではできない街にも、ビジネスチャンスがある。他国から来る人に、自慢できる何か特別なモノ・事・心がある街であれば、富裕層や学習意欲旺盛な人々をターゲットとして、これまでは「数を売る」ことが重視されてきたかも知れないが、「量よりも質」の提供の出来る観光が街を活性することにもなろう。
つづき