トランプ氏が1日の演説で、パリ協定離脱の理由としてあげた主張は事実に基づくのか。米メディアなどの報道を元に、内容を「ファクトチェック」した。
トランプ氏は「パリ協定に残れば、巨大な法的責任を負う」と語った。コロンビア大のマイケル・バーガー氏は、米メディアに「主張は誤りであり、離脱はかえって政府の不作為を訴える訴訟のリスクが高まる」と語る。同協定の削減目標は各国が自主的に作るもので、達成できなくても罰則はない。
米国がこうむると主張する不利益も不正確だ。トランプ大統領は、パリ協定を守れば、2025年までに、270万人の雇用が喪失するのだと主張して、40年までに鉄やセメント、石炭などの生産量を減らさざるを得ず、国内総生産(GDP)の損失は3兆ドル(約333兆円)に迫るとの試算を紹介した。米国経済研究協会(NERA)の分析に基づくものだが、これは他の国が全く対策をとらず、電気自動車などの技術革新を織り込んでいないなどの前提だ。つまり、対策をとった場合の利点を考慮していない。この資産に「根本的に欠陥がある研究」(英研究者)との指摘がある。
トランプ氏が不公平だと批判の矛先を向けたのが、中国やインドだ。両国は十分な取り組みをせず、何百もの石炭火力発電所を建設できると主張した。だが実際には、中国は今年100基以上の石炭火力計画を中止した。インドは太陽光など再生可能エネルギーへの投資を加速している。1人あたりの排出量で見れば、中国は米国の約半分、インドは1割程度しかない。途上国の温暖化対策を支援する「緑の気候基金」に対しても「多くの国は何も出していない」と主張し、資金停止を表明した。実際は途上国を含む43カ国が拠出を表明。日本も米国に次ぐ15億ドルを約束している。
トランプ氏は国際合意を守るよりも、製鉄業などが廃れた「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)の人々の期待に応えたいとの思いから主張を展開しているようだ。「私はパリではなく、ピッツバーグ市民の代表として選ばれた」と話した。だがCNNに出演したぴっつバークの市長は「それは全く違う」という。ピッツバーグのあるペンシルベニア州は昨年の大統領選でトランプ氏が多数を制したものの、同市を含む郡は民主党候補のクリントン氏が約56%を得て、トランプ氏の約40%に勝っていた。同市はスモッグなどの「公害の街」からの脱却に力を入れており、市長はパリ協定に沿った取り組みを続けるための行政令を出すと表明したのだ。
出典:朝日新聞6/2