ホテルチェーン「アパホテル」が客室に「南京大虐殺」などを否定する書籍を置いているとして、日本在住の中国人らが、東京都新宿区でデモ行進をした5日、1人のウイグル人男性が沿道で演説を行った。
の新疆ウイグル自治区のボルタラというところで生まれました。1981年に北京農業大に入学し、ウイグルで85年〜94年まで大学講師をしていました。94年に九州大学に留学しました」
−−教育を受けることができたんですね。
「当時の中国政府は警戒はしていましたが、今ほど敵視政策は取っていなかったんです。生家は市の中心部にありました。1960年代初頭に壊されて、5〜6キロ離れた所に移住させられました」
−−なぜ、そんなことが?
「人民解放軍のボルタラ軍区の官舎になったんです。5〜6歳のころ、父がバザールによく連れて行ってくれたんですが、必ず昔の家に連れて行って『ここは昔、自分の家があって、ここに大きな庭があって、立派な家だったんだ』って教えてくれました」
全ての土地は国のものだから、と言って、命令のままに隣近所バラバラに移住させられたんです」
「我々ウイグル族の間では『遠くの親戚より近くの他人』とよく言います。バザールに行くと昔の近所の人に会うんです。子供心に自分の家のことが気になったんですね」
−−大きな家から田舎に移住させられて、生活は変わりましたか。
「補償がほとんどなかったので、日干しレンガを自分たちで調達して、一個一個積み上げて自分の家を建てました。粗末な家でした。8歳のころ、父親が亡くなり、親戚に引き取られました。そこは工場労働者だったので、少し暮らしが良かったんです」
−−しかし、北京に行かれたんですから、さぞ頭の良い子だったんでしょうね。
(恥ずかしそうに)「自分の人生を変えたいと思って、81年に北京農業大に行きました。ボルタラでトップの成績でないと北京には行けませんでした。大学では苦労はしなかったんですが、北京に残れと言われたんですが、故郷に戻りたかった。大学教授を目指すことにしました。政治的に圧迫されたくなかったので、農業分野を選んだんです」
「農業施設の鶏舎やかんがい、土壌改良、病虫害の予防、排水といったことが専攻です。新疆農業大で教えていました。その後、日本の大学の先生と知り合い、私費留学で日本留学が決まりました」
でも1997年2月、ウイグルのグルジャというところで、ウイグル人のデモを中国が弾圧した事件がありました。数百人が亡くなったといわれています。私は日本に来て初めて天安門事件を知ったんですよ。中国では知らせていないんです」
「ちょうどそのころ、97年4月から(注4)ロータリー米山記念奨学会から奨学金を頂いていました。そこで福岡県のあるロータリークラブにお世話になることになったんですが、週に1回、木曜日に行くんです。そこで内々に事件の話をしてほしい、と言われまして。『絶対外に話さないから』と言われまして」
−−何だか話が見えてきました(笑)
「虐殺の写真やビデオを持って行って、30〜40人を前にしゃべりました。ところが、一部の方から文句を出まして。『なぜ中国の悪口を言うのか。中国でビジネスをやっているのに』と。
−−今の習近平政権をどう思いますか。
「今までで一番ひどいです。これまでにない圧迫、弾圧を行っています。こんな体制が長く続くとは到底思えないのですが…」
「アパホテル前まで歩いて行ったんですが、その間5〜6回、マイクを渡されたんです。私がウイグル人だと分かると、沿道の皆さんが応援してくれました。自分の思いを訴えることができて、日本の皆さんに感謝しています」
−−なぜあのデモを許せなかったんですか。
「日本は素晴らしい国家です。アジアで最も立派な、基本的人権が確立された国です。一方の中国は、どれだけの人たちを殺したのか。同胞たち、父母、祖父母たち…。どれだけ中国政府に酷い目に遭ったか、あなたたち(中国人)は知っているでしょう?あなたたちはここ(新宿)ではなく、天安門でデモをやるべきなんです。中国政府の中国人に対する虐殺を非難するべきなんです」
■日本の警察官は平和の象徴、中国の警察官は暴力の象徴
−−日本の警察官に感謝の言葉をおっしゃっていましたね。
「ええ。日本の警察はこんな不正義なデモですら、彼らを守ってくれる。日本の警察は平和の象徴です。それに対し、中国の警察はどうですか。中国の警察は暴力の象徴でしょう?まず警察に感謝しなさい。そう言いたかったんです」
−−中国のウイグル、チベットに対する圧迫がひどいです。なかなか日本には伝わりませんが。
「中国は自国民に何をやりましたか。大躍進、文化大革命、天安門事件…。どれだけ中国人が殺されていますか。中国国内の民主派団体の計算では8000万人殺されています。天安門事件だけで2万人です。これになぜ抗議しないんですか。恥ずかしくないんですか」
「沿道でうれしいことがあったんです。私はプラカードを十数枚用意したんです。『中国はウイグル人虐殺をやめろ』『日本はウイグルを支援する』『(注1)イリハム・トフティさんを釈放しろ』。虐殺の写真も用意しました。それを沿道の日本人の皆さんが一枚一枚手に取って、掲げてくれました。(注2)ヤルカンドの虐殺、この事件は2014年に起きたのですが、5千人くらい殺害されています。逮捕者は2万人に及びます。未だに消息不明の人がたくさんいます」
「イリハムさんは有名人ですから殺されないけど、有名ではない、市井の人は殺されてしまう。中国人ですら投獄されるのに、ウイグル、チベットは独立を主張するだけで最悪、死刑です。国家分裂を扇動した罪というのがありますから。これは最高刑が死刑なんです」
−−(注3)艾未未(アイ・ウェイウェイ)さんは、自分がされた拷問を絵画にしていますが、どうも拷問が横行しているという話は尽きませんね。
「マイナス20度の屋外に立たせたり、爪をはがされたり、お湯をかけられたりなどはよく聞きます。何日も拷問して、ストーリーを作ってしまうんです。そうすれば裁判ではどうなりますか。最悪、死刑になってしまうでしょう?」
−−恐ろしい話です。
「わけもわからず人が消える。深夜、警察が来て連行されたんだという。でも行方が分からない。こんなことが日常茶飯事です。陳情なんて、しただけで逮捕ですよ」
−−日本のデモの様子を見てどう思いました?
「誰が誰なのかも分からず行きましたが、平和ですね。『おまえ、しゃべるな』なんて誰も言わない。一方で我々には言論の自由がありません。中国はウイグルを自らの領土であり、我々を自国の少数民族だと言いますが、私たちは中国に侵略された植民地であると思っています。歴史的にも漢民族と我々は成り立ちが全く違う。中国の影響を受けていないんですよ」
◇
(注1)イリハム・トフティ氏
中国の経済学者。ウイグル族で、中央民族大教授。ウルムチ市で暴動を扇動したとして、中国当局に2009年に拘束された。いったんは釈放されたものの2014年に再び拘束。拘置所で10日間、食事を与えないなどの虐待を受けたと弁護士に主張した。ウルムチ市中級人民法院(地裁)は無期懲役判決。高級人民法院(高裁)も無期判決を支持。
(注2)ヤルカンドの虐殺(ヤルカンド事件)
2014年7月28日夕方、新疆ウイグル自治区カシュガル地区ヤルカンド県で、イスラム教武装グループが警察署などを襲い、共産党幹部らを殺害。死者は98人にのぼった。(中国新華社通信などの報道)。一方で、日本ウイグル協会などは、事件はイスラム教断食月(ラマダン)明けを祝っていたグループが中国当局に殺害されたのが発端で、数千人が抗議デモを行っただけであり、中国当局はこれに対し、軍を投入し、2〜3千人が犠牲になったと主張している。
(注3)艾未未氏
中国の現代美術家。政府批判を繰り返し、自宅軟禁や拘束を何度も受けた。2011年、脱税容疑で逮捕、投獄されたが、現在は釈放されている。
出典:産経新聞2/18
2017年02月08日
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