英国の国民投票は最後まで接戦となり、離脱がきまり、43 年にわたる英国のEU加盟に終止符が打たれる。G7での残留支持表明、最大の同盟国アメリカも度々離脱の危険性を警告していた。こうした国際的な圧力にも関わらず、正式離脱は早くて2年後となる。二度と戦争の惨禍を繰り返さないために統合の道を歩んできたはずが、英国の離脱によって、6月26日に総選挙を迎えるスペインでは、カタルーニャ地方などの分離独立機運が一段と高まるのではと緊張が走っている。 オランダでも新たな国民投票実施が言われるだけに、各国のEU懐疑派を勢いづけることになり、後を追う国が出る可能性も否定できず求心力は大きく損なわれるだろう。
1990年10月に東西ドイツが統一されて以来、旧西ドイツ政府による旧東ドイツへの投資が増加し、欧州の金利は高目に推移していた。高金利は英国経済を害した。英国は「ポンド危機」に面したが、ルールに反し、ドイツ連邦銀行はポンド防衛にまわらなかった。ここで英国人達の欧州懐疑論が深く心理に残るものになった。英国は1992年にERM(欧州為替相場メカニズム)脱退となった。この再編後、1999年には統一通貨ユーロへ移行したが、英国は別建てでとなった。
それでもEUに加盟しているメリットで、直接投資を呼び込む一方で、通貨においてはユーロを使わず、域内2位の経済を維持して、ダブルスタンダードの存在感をみせていた。ところが、EU脱退でロンドンの金融街「シティー」としての価値が失せれば、パリやフランクフルトに金融の中心地が移る可能性がでてくる。EU拠出金200億ポンドが不要になるのは大きいかもしれないが、その対価としてこれまでの威信が崩れることになりはしないか、きになるところである。
今夏、EUは米国、カナダからの観光客やビジネス出張者に入国ビザ申請を要求する計画が進行し、決定すれば、短期滞在でもビザが要求されるわけだった。これは、米国がEU加盟国であるポーランド、クロアチア、キプロス、ブルガリア、ルーマニアからの入国者にビザを要求し、カナダはルーマニア人とブルガリア人に要求しているための対抗措置だった。離脱によって米加へのビザ要求を回避できるとするが、EU圏に住む英国人は外国人として在留許可を得るなどの手続きが必要になる。
マックシェーン元欧州担当相は「ロンドンのビジネスエリートは英国を代表しない。庶民は頭(理屈)でなく腹(感情)で判断する」と語り、国民投票の結果は一筋縄では予測できない危険性を早くから警告していた。離脱が決まって英経済への影響について、国内マーケットの専門家は「EUからの離脱が決まると英国通貨ポンドが売られる。英国はサービス業の国なので輸出へのメリットは限定的だが、日本など諸外国からの投資が集まらず、金融業がうまくいかなくなるデメリットが大きい。新たな貿易協定締結には多大な時間とコストがかかる。景気の悪化も避けられないだろう」とみる。世界的な金融危機に発展しないよう、イングランド銀行、ECB、FRB、日銀がイギリスの銀行にドル資金を供給するため、事態の鎮静化に努力することが望まれるし、そうするだろう。某経済総研の試算では、対英貿易のシェアは少なく日本への直接的な影響は小さいが、EU離脱決定後のリスクオフで円が急騰がおきる。1カ月程度で対ドルで2〜6円の円高が進み、日経平均は1000円以上下落の幅はあるとした。
英国の大企業など経済界は残留派が多数で、18歳から20代前半も残留支持が離脱を大きく上回ったが、高齢層では離脱支持が強くみられた。英国国内では、「ブリテン・ファースト!」と叫んで射殺事件もおき、一方でキャメロン首相はEU離脱の経済損失を強調して危機感を訴えたが、かえって一般からの反発を招いた面もあると言われる。
映画「ハリー・ポッター」シリーズで知られる女優、エマ・トンプソンや、サッカーのスター、デビッド・ベッカムなどは残留支持を表明。英ケンブリッジ大のスティーブン・ホーキング博士(74)も残留を支持する。著名人の間でも意見は割れ、ロック界のスター、ミック・ジャガーや、掃除機で有名なダイソンの創業者は離脱を支持すると表明していた。ボリス・ジョンソン前ロンドン市長らが率いる離脱派は、ポーランドなどEU域内からの移民が雇用を奪っているとの不満やテロへの危機感を背景に支持を伸ばしてきていた。
キャメロン首相としては、国民投票を2013年選挙で公約した理由として、(1)与党・保守党内の反EU勢力をなだめる(2)EU離脱を唱える英独立党(UKIP)へ保守党支持層が流れるのを防ぐ(3)EUに英国に有利な改革を迫る材料になる−など、首相にとっての政治的思念があった。そこで、首相は経済面での残留メリットを説明、残留を確かなものに出来ると見込んでいたが、首相の読みは甘かったということになった。
英紙サンデー・タイムズは、今回の国民投票をめぐって「キャメロン首相の七つのミス」を挙げた。英国にレファレンダム実施要件を規定した法律はなく、その都度政権が法律をつくって行う、これほど大きなリスクを冒してわざわざやる必要はない。そもそも最初から実施を公約すべきではなかった」とも指摘した。首相は2014年のスコットランドの独立を問う住民投票も、独立は簡単に阻止できると高をくくって実施、あわや首相自身が望まないスコットランド独立が実現しかねない危機的状況に陥った第二弾の英国ショックだ。政治手法として国民投票や住民投票(レファレンダム)を使うことへの危険性が改めて浮き彫りになった。そして、ポンド下落という為替の調整によって関税等の障壁を補うことが可能である。ここが、為替の調整が出来ないユーロ採用国との決定的な差である。
(参照:ロンドン時事/06/24-06:48)
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