2015年09月21日

シリア難民のアイラン君(3歳)の写真が欧州の難民政策を変えた

 9月4日、小さな子供のショッキングな写真が、欧州諸国の政治家に政策転換させる事態をせまりました。その写真とは、クルド人のアイラン君(3歳)という男の子の亡骸が、トルコのリゾートビーチに漂流したという哀しい情景です。赤いTシャツと青いズボン、靴を履いたまま波打ち際で発見されました。

THE WALL STREET JOURNAL(注:アイラン君の写真と関する記事が掲載)
http://on.wsj.com/1JP8Ozg

 亡くなっていたアイラン君を発見したのは、トルコの地元記者の女性でした。「私ができたことと言えば、彼の叫びを世界に届けることだけでした」とその記者はインタビューで答えていましたが、彼女が撮影したライアン君の姿は、シリアの難民問題がいかに深刻かを象徴する一枚として、世界各国のメディアによって広く拡散されることになりました。

 「写真に撮られなかった犠牲者、人知れず亡くなった犠牲者、そして我々が何もしなかった場合の未来の犠牲者に思いをはせている。だから今こそ行動するときだ」とは、移民大国フランスのオランド大統領の言葉です。

 この写真をきっかけにして、オランド大統領とドイツのメルケル首相は連名で、難民の受け入れの新たな仕組みをEUに提案。一方、イギリスのキャメロン首相も、「一人の父親としてライアン君の写真に深く心を揺さぶられた」と、移民や難民の流入を制限してきた政策を一転し、シリア難民を数千人規模で受け入れることを約束しました。難民のための避難所増設を求める世論が高まっている英国では難民申請者をより多く受け入れるよう要求するオンライン請願書への署名者数が1日前の4万人から30万人に急増したからです。一国のリーダーも、一人の人間です。「一人の父親として深く心を揺さぶられた」というキャメロン首相は悲痛な念を言葉にしました。

 「ヨーロッパが直面する難民問題」と日本では報道されている今回の問題ですが、これは本当に「ヨーロッパ」だけの「問題」なのでしょうか。シリアの混乱、ISの台頭、中東地域の泥沼化は、米国が「大量破壊兵器」の名の下に仕掛けたイラク戦争が引き落とした部分が非常に大きいのです。実際には大量破壊兵器は存在しませんでした。戦端を開く言いがかりだったのです。米国の責任は重大であるにもかかわらず、イラクを破壊しただけでなく、その隣のシリアへも空爆を敢行しています。いつも自身の過ちを認めない米国は、「世界の警察官」「正義の国」であるかのように他国を空爆する、そんな資格を誰が与えたというのでしょうか。その米軍に、なぜ自衛隊がついていかなくてはならないのでしょうか。

 国際的なシリア難民の問題が日本で議論や問題にならないのは、日本政府が難民受け入れないために、回避してきたに過ぎません。日本が難民認定したシリア人は3人だけ。今年6月、国連は日本にも難民受け入れに協力するよう要請しています。

 一方、ドイツのメルケル首相は80万人の難民を受け入れる意向を表明していますが、ドイツが難民を受け入れる根拠は「連邦基本法に規定された人間の尊厳と庇護権である」とメルケル首相は述べています。もちろん、国内から反発がないわけではありません。財政負担の増加や難民の収容施設不足、職員不足などで国内から不満が上がっているほか、「ネオナチ」といった極右の差別主義グループが難民排斥の暴動を起こすなど、受け入れに抗議する勢力の存在も深刻です。

 しかし、そうした状況を抱えながら、難民の受け入れはドイツにとって大きな挑戦であることを認めた上で、メルケル首相は毅然とした態度で「ネオナチ」について、次のように呼びかけています。「どのような理由であれ、このようなデモへの参加を呼びかける人たちには従わないように。彼らの心は偏見に満ち、冷たさと憎しみがあるからだ。近づかないように」と、一定の反対世論がありながらも、人間の尊厳を重視する女性リーダーのこの決断に、88%の国民が難民のための衣類提供や募金に協力すると答え、ボランティアに協力するという世論も67%に上ったそうです。

 メルケル首相の覚悟にドイツ国民も立ち上がったのでしょう。身一つでようやくドイツに辿り着いたシリア難民の多くを、ドイツ市民が歓声と拍手で迎え入れるシーンが世界に報じられました。そして、ライアン君の写真から聞こえてくる難民たちの叫びは、今でも波紋を広げています。欧州以外の国々、ブラジルやオーストラリア、ニュージランドも次々とシリア難民の受け入れを各国首相が明らかにしています。

 世界中のメディアが溺死した男児の画像をさまざまな形で報じました。難民の救援に消極的だとして先進国の首脳陣に怒りの矛先を向けるようになっています。カナダでは来月の総選挙の争点に、難民危機に対する同国の対応に注視。ハーパー首相は3日、政府の難民対応の実績を挙げて擁護し、今後も一層の努力をすると約束したということです。

 安倍総理の言う「積極的平和主義」とは、実態は何なのでしょう。国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に寄与していかなければならないという平和主義が、なぜ、集団的自衛権だけの文脈でしか語られないのか。日本が難民に「積極的平和主義」で受け入れる姿勢が示せば、中東、欧州を経て、日本に渡ってくることもあるでしょう。人口の約半数、400万人ともいわるシリア難民が長引く内戦によって国を追われ、トルコやレバノン、ヨルダンなどへ逃れたました。トルコのエルドアン大統領は「地中海を難民の墓場に変えた欧州諸国はすべて、難民を死に追いやった罪を背負っている」とし、「地中海で溺れているのは難民だけではない。われわれの人間性もだ」と述べました。その後、ドイツやスウェーデン、オーストリアといった欧州各国が、彼らを受け入れ、これまでの経緯を認識して保護する意思を示したので、難民が欧州へ移っているのです。

 思い返せば、年初にシリアで日本人の人質2人がISILに殺されたとき、許さないと強い口調でISILの暴力をすぐにも非難した安倍総理でした。それが、なぜ同じくシリアを舞台にした難民の苦境に対しては、沈黙なのか。それが安倍総理の国際感覚なのか。これまでシリア難民を受け入れてきた国に資金援助をしてきたとは言え、世界各地で能弁ぶりを示してこんな時に「沈黙は金なり」ではないはず。

 「戦争法案」という呼称に反発し、地理的制限を取り払って地球規模の平和や安全を強調して掛け持ちでテレビ出演しながら、今こそ人道的な配慮を示すべき時であるはずなのに、何ひとつ「積極的」な言動を見せないのはなぜなのか。

 今までの歴史をみても、差別と侵略戦争は深く結びついているのは明らかだ。そうした背景にあってヘイトスピーチを行うレイシストの偏狭なナショナリズムに違和感を感じて、町中で日の丸の旗を慶事に掲げる家も減ったようなのである。偏狭なナショナリストは操り甲斐がある、大挙して動いて投票に結びつくから、支持率にも結びつけてもきたようなところがある。外国人特派員の取材で、日本会議の存在が政治と強く結びついていることも明らかにされている。レイシズムとの決別を敢然と訴えたメルケル首相の発言をどう聞いたことのだろうか。今回の件で改めて、安倍総理のいう「積極的平和主義」の本質が見えた気がします。


参照:IWJメルマガより
posted by Nina at 00:00| 千葉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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