沖縄が5月15日に日本に復帰して43年。
沖縄と政府の関係が緊張するなかで迎えた「復帰の日」だ。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設準備を、多くの県民の反対を顧みず、政府が推し進めている。
戦後70年間、基地負担にあえぎながらも日本の安全保障を支えてきた沖縄の訴えに耳を傾けるべきで、国民は沖縄を孤立させてはならない。
昨年12月に翁長雄志氏が知事に就任して以来、会うことを拒んできた菅義偉官房長官、安倍晋三首相、中谷元防衛相の政府首脳3人との会談が、ようやく4月、5月に実現した。その機会に翁長氏が発した言葉が、沖縄の強い意思を明確に示した。
復帰前の米軍統治下、基地建設のために「銃剣とブルドーザー」で土地を強制収用されたこと。自治権拡大を「神話」と言い放ったキャラウェイ高等弁務官のこと。軍用地の一括買い上げを狙ったプライス勧告のこと。翁長氏は県民にわだかまる記憶を次々とすくい上げ、現政権と二重写しにしてみせた。
翁長氏の発言は、昨年の名護市長選、県知事選、総選挙と繰り返し示された辺野古移設反対の民意が無視され続けていることへの怒り、そして今の沖縄の政府に向けた行動が米軍政下の自治権獲得闘争と同質であるとの見解の表明である。
中谷防衛相との会談では、翁長氏が那覇市長時代の2年前、自民党の参院議員から「本土が(基地受け入れを)嫌だと言っているのだから、沖縄が受けるのは当たり前だ。不毛な議論はやめよう」という言葉を投げかけられた経験を明かし、本土側の意識を痛烈に批判した。
一連の会談をきっかけに、国内世論が次第に沖縄に共感を示し始めたことは注目される。
朝日新聞など多くの報道機関の世論調査でも、政府の姿勢を評価しないとする声が増えた。
移設阻止を訴えるために県議や地元経済界が設立した「辺野古基金」の共同代表に映画監督の宮崎駿氏らが就くなど、問題への関心が高まっている。
翁長知事は今後、米政府をはじめ国際世論にも広く働きかける戦略を描く。
復帰後も、「本土並み」という願いは踏みにじられてきた。
「沖縄が再び国の手段として犠牲になってはならない」。琉球政府主席で復帰直後の沖縄県知事、屋良朝苗(やらちょうびょう)氏はこう訴えたという。今またわれわれは沖縄を犠牲にしようとしていないか。本土の国民は改めてこの問いを受け止める必要がある。
出典:
朝日新聞 社説(5/16)