安全保障関連法案の閣議決定後の記者会見をテレビで見た。手慣れた様子で、安倍晋三首相は法案について、記者からの質問に答えるなどを含め、30分超の説明を行った。
北朝鮮のミサイルは日本全土を射程距離であること、中国での軍事力が増していること、尖閣諸島、領空権をも犯す行為をみせている。竹島の領土問題まで含めると日本の平和憲法ではこれらが脅かされるとの脅威をいう人々が、万一に備えることは絶対に必要だと考えており、それはこれまでの三度も選挙を通じて党の公約としてはっきり打ち出してきた、そのことへの筋道だとも説明した。国際法上の正当性などがあれば、自衛隊をいつでもどこにでも派遣できるよう米軍以外の国の軍との連携や後方支援も可能にする。他国への武力攻撃が「国民の権利が根底から覆る明白な危険がある」と判断すれば共に武器を取って戦うことも辞さない国へと転換することになる。安倍政権の「今」だから変える千載一遇の好機とみている。
昨年5月の記者会見で、母子が描かれたパネルを見せながら邦人輸送中の米艦船を自衛隊が守ることの必要性を訴えた。ところが、新たな指針はそんな事例をはるかに飛び越え、自衛隊が米軍の活動を世界規模で補完する可能性を示している。この歴史に残る大転換の是非を、日本の国会も国民もまだ問われることがない。それまで政府は9条のもとでは集団的自衛権の行使は認められず、認めるには憲法改正が必要だとしてきた。自衛隊が合憲とされてきたのは、「自衛のための必要最小限度の実力」であると解釈されてきたからだ。だが、限定的であろうと集団的自衛権で他国を防衛できるとなれば、必要最小限度の範囲を超えるということだ。
米軍からの様々な要請を断ってきた憲法上の根拠を自ら捨て去ることにもなる。つまり、正当防衛に限定しない武器使用の拡大も含め、憲法の制約で「できない」とされていた活動を「可能」とする。「日本の平和と安全を守る」法整備とはいうが、日本の平和につながる軍事行為を米軍から求められる歯止めを次々になくして、日本の近海を超えてどこまで網羅する平和のための軍事活動なのか。昨年の集団的自衛権の行使容認を閣議決定は「解釈改憲」とも言える事に等しいから、具体的な自衛隊の配備、派遣は自衛隊という名前こそ違え、軍隊と内容は同一に限りなく近くなっていくのではないか。
これまでにも、日米安保反対、PKO法案反対、戦争に加担するなとの野党の危惧は、戦中世代、団塊の世代の戦争の悲惨を舐めた国民の声を代弁して国会で言われてきたが、今回の閣議決定はそうした声を聴く耳はなくなっている。戦争への深い反省をもとに憲法によって、外交で解決することを一義としてやってきた世界に比類ない憲法だと認識も深まってきた。国を守るとの言葉の後ろに米軍と共闘しなくてはならないとの気分が一義になっている印象の会見だった。
自衛隊の活動範囲を飛躍的に広げる安全保障関連法案に、「存立危機事態」に「重要影響事態」という抽象的で難解な言葉が多数使われた。自衛隊の現場や防衛省内から、安倍政権の進め方に不安や疑問の声が上がっているともいわれる。以下、毎日新聞の報道から拾う。
■戦死者必ず出ると元防衛官僚が指摘するが
海外の現場を踏んできた自衛官たちは、安保法制の行方を複雑な思いで見詰めている。
「僕なら南スーダンには派遣しない。自衛隊がアフリカで活動することが、日本にとってどれほどの意味を持つのか」。イラク派遣にも関わった元将官がこう漏らす。陸上自衛隊は2012年1月から、事実上の内戦状態が続く南スーダンへ国連平和維持活動(PKO)で派遣されている。名目は「国造りへの貢献」だ。
今後は戦う他国軍への支援で地球の裏側へ派遣される可能性もある。自衛隊は日本を守る組織であり、派遣先が日本から離れれば離れるほど、必要性は分かりにくくなる。「国民の支持を受けて派遣されたい」というのが現場の隊員の率直な気持ちだという。
湾岸戦争終結後のペルシャ湾への掃海艇派遣(1991年)では「家族が反対した」として隊員3人が辞退。また、健康上や結婚を控えているなどの理由で5人が固辞した。
「誰だって怖いが、文字通り同じ釜の飯を食う仲間に迷惑をかけるくらいなら行く、という絆がある」。部隊長も経験した30代後半の陸上自衛官は言う。「自衛官は命の使い道が決められている。だから尊い仕事だと思っている。でも、なぜ行くのかきちんと説明されなければ、部下も家族も納得させることができない。政治家は、自分の子供を行かせると思って真剣に考えてほしい」
防衛省内でも、与党協議が続いていた時期「『事態』にもいろいろあって複雑だ」「法律として明文化されないと、どんな活動をすることになるか分からない」「国民的合意が得られるのか」と疑問の声が上がっていた。
「我々は政府の命令に従うだけ」。制服組のある幹部は淡々と語る。その一方で「何かが起きた際に、政治家が自衛隊にどんな命令を出すか難しい判断に迫られる場面も出てくるかもしれない」と懸念も口にした。
別の幹部は「法律が変わってすぐに現場で対応できるわけではない。部隊で訓練を重ねる時間が必要だ」と語る。そして「今回の法制が国民から本当に後押しを受けるのか。憲法9条改正を避け、自衛隊の位置付けをあいまいにしたまま危険な任務に就くのは、どうか」と胸中は複雑だ。
一方、背広組の幹部は「今出ている法案は役人の言葉。だから難しいのは確か。いかにかみ砕いて国民に説明できるか」と話した。「米国や他国に巻き込まれるとは思わない。なぜなら我々は国益を考えるから」と冷静に受け止めた。
出典:毎日新聞5月14日
内閣府 一問一答
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/anzenhoshouhousei.html